AFRO FUKUOKA

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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2012.8.1 Wed

VOICE TITLE

vol.36 吉田大八・山本美月

映画監督

INTERVIEW

  • 吉田大八[Daihachi Yoshida]
    映画監督
    1963年生まれ、鹿児島県出身。1987年、CM制作会社入社。CMディレクターとして数々のCMを手掛け、多くの広告賞を受賞する。2007年、初の長編映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で映画監督デビュー。同年のカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され注目を集める。以降、『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』など話題作を立て続けに発表。2012年8月、朝井リョウの同名小説を原作とした映画『桐島、部活やめるってよ』を公開する。
  • 山本美月[Mizuki Yamamoto]
    女優・モデル
    1991年生まれ、福岡県出身。2009年、当時高校3年生で「東京スーパーモデルコンテスト」の初代グランプリに輝く。以降「CanCam」専属モデルとして、モデル業のほか、CMやMVへの出演など、活動の幅を広げていく。2011年にはドラマ「幸せになろうよ」(フジテレビ)にて女優デビュー。2012年、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』で初の映画出演を果たす。

TEXT BY

STAFF
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2012年8月11日に公開される映画『桐島、部活やめるってよ』。第22回小説すばる新人賞を受賞した、朝井リョウのベストセラー小説を原作に、時間軸と視点を変えて同じシーンを何度も繰り返し進んでいく手法を用い、不穏的×刺激的×技巧的な映像作品を作り上げた吉田大八監督、そして、600人以上が参加したワークショップ形式のオーディションを勝ち抜き、"桐島"の彼女・梨紗役を見事に射止めた福岡出身の人気モデル・山本美月さんが映画の公開キャンペーンで来福した。高校という、ある種の閉じた世界を中心に生きる若者たちの姿を瑞々しく鮮明に描いた本作の製作秘話をお二人に伺ってきた。

自分には縁がないと思っていた作品だったので、最初は驚きましたね。(吉田監督)

本作を撮ることになったきっかけを教えてください。

吉田:きっかけは知り合いのプロデューサーの方から話が来たから、なんです。すごく目立つ表紙で、引きのある変わったタイトルだったので、実は小説のことはもともと知っていました。でも、年代的にも自分の範疇ではないんだろうなと思っていて手に取ることは無かったんですね。それがある日、プロデューサーから「映画にしようと思ってる作品があるんだけど」という相談があり、詳しく聞いてみると『桐島、部活やめるってよ』だったんです。その時はすごく驚きましたね。気にはなりつつも、自分には全く縁がない作品だと思っていたものが、いきなり自分の目の前に、ポンっと出てきたので。 まあ、僕は単に原作を読んでなかったので、一度読んでみれば僕が映像化するということに対する答えがきっと何かあるのだろうと思いました。そして、小説を読み始めると、やっぱり僕が想像していたものとは違っていて。なんというか、いわゆる普通の”青春”を綴った、甘酸っぱい感じの小説というよりは、高校という場所が内包している様々な感情、例えば厳しさや過酷さ、甘酸っぱさ、日常に存在する喜怒哀楽など、高校中に存在する気持ちの揺れが、とてもリアルに描かれていました。しかもその感情を、校内のいろんな立場の登場人物の目を通して語っている。結局は単純な”青春”だけというわけではなく、人間のドラマが描かれた作品だったんですね。それで、なぜ自分に映画化の話が来たのかが納得できました。そこから、この作品の映像化について前向きに考え始めました。

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小説を映像化するにあたり、特に意識した点があれば教えてください。

吉田:原作はモノローグなんですね。それぞれ、ある一人の登場人物の名前をタイトルに掲げ一つの章が始まって、その彼や彼女の視点を通して見たものや感じたことを、丁寧に綴っていくスタイルの小説なんですけど、これって小説だから成し得ることで。映画でそのまま再現しようとすると、すごく不完全な感じになるというか、少なくとも僕が考える映画のカタルシスとはちょっと遠くなると思ったので、このモノローグで綴られる心理描写や情景描写を、どう映画的な出来事やアクションに置き換えていけるかというところを意識しました。でも、いかにも小説らしい小説だったので、シナリオのときは逆に吹っ切れて考えることができ、割とやりやすかったですね。

完成した状態のビジョンはすぐにイメージできたのですか?

吉田:あまり話してしまうとネタばれしてしまうので詳しくは言いませんが、原作の終盤に、それまでの学校生活の中でそれぞれ別のグループに属し、全く触れあうことの無かった二人が、ほぼ初めて出会い会話を交わすシーンがあります。ほんの一瞬のさりげない会話なのですが、そこを読んだ瞬間に頭の中にパンっと映像が浮かびました。原作とは既にシチュエーションから何から違うんですけどね。そこがもう強烈なイメージとして頭の中にそのまま残ったので、とりあえず直感を信じ、このシーンを拠り所に映画全体を考えていきました。

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登場人物全員をきちんとかわいがれて本当に良かった。(吉田監督)

本作は、それぞれのキャラクターの視点で進むアンサンブルな構成になっていますが、映画を観る方によって主人公が変わるのではないかと思います。あえてあげるとすれば監督にとっての主人公は誰なのでしょう?

吉田:これは、正直に言うと誰でも無いんですよ。登場人物全員に対し、瞬間瞬間にすごく感情移入していると思うんです。嘘くさい言い方に聞こえてしまうかもしれませんが、そこに関しては、全員に同じだけの愛を注いだ感覚です。撮影している時もそうなのですが、編集している時に、なんとなく誰かの気持ちに乗っかって観ていることが多くて、それがその都度変わるんです。でも、クランクアップして思うことは、全員をきちんとかわいがれて本当に良かったなということ。主人公がいないというのが、逆に自分にとっての大きなテーマだったので。各場面で誰が物語を前に進めるのか、ストーリーのエンジンとしての推進力を担っているのは誰なのかと言えば、神木くんが演じた前田(注:神木隆之介さん演じる映画部2年生。クラスでは存在を消すようにおとなしくしている)がキーマンとなっていることは間違いないと思います。でも、例え校内での立場が上のグループでも下のグループでも、高校生たちはみんな、自分の物語の中で自分を主人公だと思い生きている。結局、そういうところに自分的にも感情移入してやっていたので、誰かを突出した主人公として立たせることは出来なかったんです。 それこそ梨紗のシーンをやっている時は、本当に梨紗の気持ちになっているんですよ。まあ、梨紗をやっている山本さんの気持ちなのか、登場人物としての梨紗の気持ちなのかはわからないけど、そこをがんばれ!そこを超えろ!みたいな感じで。そういう意味では、いつもの10倍くらいの集中力を使っていたので、作っている時は本当にしんどかったですね。

監督が現場の空気感を取り入れて、作品中にまとめてくれました。(山本美月さん)

登場人物はそれぞれ立場が違いますが、各々の感情をリアルに演出することは難しかったのではないでしょうか?

吉田:まあ、難しいといえば難しいけど、監督としては楽しいことではないですか?イケてる女子高生なんていうのは体験しようがないですからね(笑)。僕は男子校だったので、想像からしか入らないのですが、実際に演じてくれる人を通して役が育っていくこともありますよ。例えば、梨紗を演じてくれた山本さんのアプローチに対して自分の中で納得して「ああ、なるほど」と。僕もシナリオ書いていますし、演出もしますが、結局は彼女の身体を使って具体化するわけじゃないですか。「なるほど、こういうことなんだ」と、彼女のアプローチに乗っかりながら「もっとこうしたほうが良くなるかも」とか、「そうしたいんだったら、こっちの方が良いよね」というような寄せ方もできる。そういう意味では、今回は一つ一つの役に対し、演じた人とのコラボレーションができました。まあ、これだけ年齢が違うと、絶対に自分の感覚では届ききらないところもあるはずじゃないですか。自分の高校の頃の感覚をそのまま押し付けても全く意味が無いので、その辺りの現在進行形な若者の観点ではすごく助けられました。これは、苦労というよりは結構楽しい作業でしたよ。

山本:登場人物の全員がそうだと思うんですけど、監督が私たち演者の意見もすごく大切にしてくれて。最終的に完成されたキャラクター像は制作チームのみんなで協力して、少しずつ変化していきながら生まれた人間性なんです。撮影が終わってみると、私が最初に想像していたイメージからは少し違う梨紗になっていましたね。撮影中だからこそ生まれる現場での空気感や意見などを、監督がうまく消化して取り入れてくださったことで、本当にリアルな感情の揺れ動きが表現できたんじゃないかと思います。私の演じた梨紗は、バスの中でのシーンがあるんですけど、そこも、実際に本番になるとすごく気持ちが入ってしまい、リハーサルの時とはちょっと違う表現になったんです。でも、監督もその演技に対してGOを出してくれました。私はあまり演技経験は無いんですけど、すごくやりやすく演じさせていただいたと思います。

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吉田:僕は監督なので一応のキャラクター設定は出すけど、「監督がこうだと言うのでこうします」で終わってしまうと、一人一人の登場人物をリアルに具体化できないような気がしたんです。やっぱり身体を通して演技する俳優に寄っていかないとリアルなキャラクターは生まれない。自分だったらこうしたいとか、自分的には絶対にこうなんだと、僕が収集できないくらいガーッと来てくれないと、この映画には、ある種エネルギーが出てこないと思うんです。いつもは演出が細かいって言われるんですけど、今回に関しては、みんなあまり細かいとは思っていないんじゃないですかね。俳優たちから出てきたものをうまく受け入れながら、その生っぽさを壊さないようにするというか。いつもみたいに細かく指定すると、人にもよるんでしょうけど、生き生きした感じが弱くなってしまう気がしたんです。 なので、今回は言われたことをきちんとこなすだけではなく、僕とのやり取りにつきあってくれそうな人たちを選びました。山本さんにしても、演技の経験はあまり無いんですけど、なんというか、やっぱりギラギラしたものを感じたんですよ(笑)。モデルで芝居をしたいっていう人はたくさんいると思うんだけど、ただそれだけじゃない気がしたんですよね。それが何かはわからないし、未知で怖いけど、でもすごく感じるものがあって。今回は、それぞれの役に関してこの人と心中して上手く行かなかったとしても、諦めがつくなって思えるような、こだわりが感じられる人たちに来てもらったんです。そのくらい、キャスティングは今作においての重要なポイントだったので、キャストが全員決まった時点で、大きな仕事を一つ終えた感じでした。

映画の103分間、本当に高校にいるような臨場感があってドキドキしました。 本作での桐島という人物はどういう役割を担っていたのでしょうか?

吉田:ありきたりな答えではあるんですけど、”触媒”だったのだと思います。桐島が居るにしても居ないにしても、それぞれの人間関係の中で、お互いに圧力を高め合って、解放される瞬間があったんだろうなと。結果として桐島のしたことや、桐島が居ないということで、凝縮した感情が一気に放出した感じ。桐島自体は何も変わらないんだけど、桐島の行動が周囲の人間の環境を一気に変えてしまったんです。

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登場人物の中で一番かわいそうなのは、きっと私なんです。(山本美月さん)

桐島の彼女・梨紗役を演じられた山本さんは、今作で特に桐島との関わりが深いキャラクターでしたが、山本さんから見た”桐島”とは、どういう人間だったのですか?

山本:完璧な人です。梨紗にとってのステータスでもあるんだと思います。桐島君は見た目も良くて、運動も出来て、優しいし、勉強もそれなりにできて、人当たりがとてもいい人。個人的には私が考える”完璧な男の人”って男友達が多い男の子なんです。彼女にだけ優しいんじゃなくて、男友達も大切にする。だから、劇中でも竜汰や友弘、宏樹(注:クラスの中心グループの男子たち)とかが、毎日バスケで暇つぶししながら、桐島君の部活が終わるのを待っていたんだと思うんです。そのくらい友達からも慕われている、本当に完璧な人というイメージがありました。私の中の設定なんですけど、毎日たくさんメールもくれたし、夜も電話してくれてたし、本当に愛されていたんです。でも、部活やめた瞬間から、全然連絡取れなくなって。「何この人意味わかんない!」って。あんなに優しかったのに。だから、登場人物の中で一番かわいそうなのは、きっと私なんです(笑)。

吉田:こうやって梨紗の中に、確実に桐島は居るんですよ。さっき彼女が話したバスの中のシーンなんですけど、撮影中に、なんかブツブツブツブツ言ってる。桐島に本気で腹を立てているんですよ。まあ、そうなってほしいとは思っていながらも、やっぱり驚きましたね。「あ、そうなんだ。桐島もう居るんだね」って。

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山本:本当にすごく悲しかったんです。だから、終わった後のインタビューでも悲しくて泣いちゃって。撮影時期が、ちょうどクリスマスの時期だったんですよね。イルミネーションがキラキラ奇麗で、「ああ、見に行ったね、一緒に」って思って。

では、梨紗のイメージは?

山本:梨紗はかわいいんです。沙奈(注:松岡茉優さん演じる帰宅部2年生。自分のステータスとして彼氏や友達を選ぶ節がある)はがんばってかわいいけど、梨紗は天然でかわいい。別にかわいくしようと思っているわけじゃないだけど、普通にかわいいんです。演技にも、「それ、もっとかわいく言って!かわいく!」ってすごく言われました(笑)。でも、どうやったらかわいくなるんだろう?って。私自身は結構さっぱりしていて、しゃべり方も普通なので、かわいい子はどんなしゃべり方なんだろうというのはいつも考えていましたね。

かなり具体的なキャラ設置をされていたんですね。

吉田:桐島の彼女っていう役回りですからね。山本さんは、アニメとかも好きだというし、二次元的な妄想力というのがあるんですよ。僕としては全く意識してなかったんですけど、ここまで具体化していると思わなかった。スピンオフの漫画でも描いてほしいな(笑)

本作のような学校内の序列は、本当にどこの学校にもあるものなのだと思いますが、高校生の頃は本作で言うと誰に近い学生生活を送られましたか?

吉田:僕が学生の頃は、校内にカチッと序列ができてて、そこから逃れられないっていうイメージは持ってなかったんですよね。まあ、誰に近いかというと、みなさんが思うように、前田みたいに、輪から少し外れたところで好きなことに打ち込んでいましたね。僕の場合は興味の中心は音楽だったので、ロックを聴いたり楽器を演奏したり。その当時、ロックは学校の中のものではなかったんですよ。だから、学校は関係無いと自分の中で納得できた分、早めにきりがついてしまった。さっきから「高校生は学校が世界の全てなんだ」とは言いながらも、僕は最初から学校の中の何かにとけ込もうとしてなかった。音楽を見つけられたから、なのかもしれないんですけどね。

山本:私は、この映画の撮影に入る前とは考え方が変わっているかもしれないのですが、改めてじっくり考えてみると、かすみ(注:橋本愛さん演じるバドミントン部2年生。派手なグループの女子の中でも落ち着いている)に近いかなと思います。目立つグループには居るんですけど、100%乗り切れてないというか。私、すごくオタクなんですよ。きっと、感覚はそういう子たちと合うんだと思うんですけど、自分の中に派手なグループに居たいっていう気持ちもあって。でも、やっぱりなんとなくノリが合わないっていうか。そのかすみの微妙な葛藤みたいな感じは、ちょっと私に似ているのかもしれないなと思います。

最後に読者の方にメッセージを。

吉田:とりあえず映画を観てもらうといろいろ話もできるんですけど(笑)。観る前から話がわかる映画ってあるじゃないですか。本作は観てみないと本当に何もわからないと思います。そういう意味では、観る前になんとなく想像している内容を、観ながら確認するというようなタイプの映画ではないので、逆にすごく飲み込みにくいかもしれない。でも、下手すると一生心の中に残っちゃうような相当強烈な成分も含まれていますので、覚悟して観に来てください。夏ですからね、2日くらい寝込んでも問題ないと思うので(笑)。

山本:監督の仰るように、寝込むくらいの衝撃はあるかもしれないんですけど、私としては何回でも観てほしいなと思います。絶対に自分に似た人が居るんですよ。全部じゃないけど、ちょっと似てるかも…みたいな人。色んな登場人物が出てきますが、私は梨紗なので、ぜひ、梨紗の気持ちの揺れ動きにも注目していただければ嬉しいです。こういう子いたなーって、クラスの一員になった気分で観てください(笑)。

INFORMATION

8/11公開
©2012「桐島」映画部 ©朝井リョウ/集英社
■映画『桐島、部活やめるってよ』

INTERVIEW

  • 吉田大八[Daihachi Yoshida]
    映画監督
    1963年生まれ、鹿児島県出身。1987年、CM制作会社入社。CMディレクターとして数々のCMを手掛け、多くの広告賞を受賞する。2007年、初の長編映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で映画監督デビュー。同年のカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され注目を集める。以降、『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』など話題作を立て続けに発表。2012年8月、朝井リョウの同名小説を原作とした映画『桐島、部活やめるってよ』を公開する。
  • 山本美月[Mizuki Yamamoto]
    女優・モデル
    1991年生まれ、福岡県出身。2009年、当時高校3年生で「東京スーパーモデルコンテスト」の初代グランプリに輝く。以降「CanCam」専属モデルとして、モデル業のほか、CMやMVへの出演など、活動の幅を広げていく。2011年にはドラマ「幸せになろうよ」(フジテレビ)にて女優デビュー。2012年、吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』で初の映画出演を果たす。

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