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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2014.2.15 Sat

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vol.56 猪子 寿之

チームラボ 代表取締役

INTERVIEW

  • 猪子 寿之[Toshiyuki Inoko]
    チームラボ 代表取締役
    1977年、徳島市出身。東京大学工学部計数工学科にて確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。2001年の卒業と同時に、チームラボを創業し、現在約300名のスタッフを率いる。

TEXT BY

STAFF
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福岡の情報ポータル&ウェブマガジン

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『鑑賞から体験へ、アートの新たな方向性を示す』

プログラマーやエンジニアはもちろん、デザイナーや絵師まで、情報社会における各分野のプロフェッショナルたちで構成される『チームラボ』。彼らが作り出すテクノロジーを駆使した新たな"アート"は、国内のみならず欧州やアジアでも大きな評価を受け、そのインタラクティブな作品のひとつひとつが様々な場面で話題を集めている。そんなチームラボの国内初の個展が、意外や意外、なんと九州・佐賀県で開催されるという。チームラボが見据える未来や、佐賀県そして福岡との意外な接点について、代表の猪子氏にごあいさつがてら根掘り葉掘り聞いて来ました。

“1人で出来ること”よりも”チームだからこそ出来ること”を大切にしています。

あらゆるスペシャリストを集めた”ウルトラテクノロジスト集団”『チームラボ』を率いる代表としての想いをお聞かせ下さい。

代表としての想いと言われると難しいのですが、『チームラボ』のモットーとして、”1人で出来ること”よりも”チームだからこそ出来ること”を大切にしています。本展覧会でも、巨大な空間やCGアニメーション、映像などを用いた作品をたくさん展開しているのですが、これらは具象的な絵としても楽しめる一方で、映像としても体験出来るインタラクティブアートなんです。空間を用いて参加者に体験させるアートなんて、1人で作ろうとするとなかなか大変でしょ。そういう、チームだから作れるような作品を手掛けていきたいと思っています。

Web制作をメインとする事業から、アートや空間設計など様々な分野に事業を拡大していくというビジョンは、創業当初からお持ちだったのでしょうか?

そういう目標があったというよりは、必要に応じてだったり、要所要所での出会いをきっかけに始めた事業が多いです。創業当初は、テクノロジーを用いたソフトウェアとアートの制作を行う会社だったんですよ。でも、両方とも全然売れなくて。当時は、ハイテクなソフトウェアのニーズがあまりなかったし、アートなんてそもそもそれほど売れるものではないでしょ。だから、Web制作の仕事も請け負うようになりました。その間も、アート事業を続けていたら、最近になってそちらも評価していただけるようになってきましたね。空間設計事業に関しては、アートを空間で体験してもらうような作品を作ることが増えていくにつれて、空間の専門家も増えてきたからという要因が大きいです。

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以前は、どちらかというと日本はテクノロジー分野における先進国だったはずですが、今では欧米や韓国に先んじられているような印象が強いですよね。

先んじられているというか、完敗していますよね。

そんな中、テクノロジー分野におけるスペシャリスト集団として、チームラボはどのような存在を目指しているのですか?

小さい存在なので、社会全部を変えることは到底無理だと思っています。でも、チームラボの作品で世界を驚かせたいと思うし、その結果日本にいい影響があれば嬉しいですね。

そこには日本を代表しているという感覚も少なからずあるのでしょうか?

日本だからというのは一切ありません。自分が育って今住んでいる社会が、より未来において発展して欲しいという一心ですね。自分たちの社会がつまらなくなると、自分自身もつまらないでしょ。それに、競争に負けて貧困になってしまったら、それはそれでつまらない。そんな想いの下、たまたま僕は日本に生まれて日本に住んでいるから、日本が少しでも面白くて裕福な社会になれるよう、役割を果たせたらいいなと思っています。そういう考えからすると、出身県とかもあまり関係ないと思うんですよね。だから、僕は徳島県出身なのですが、今佐賀県にお世話になっているから、ふるさと納税は佐賀県にしています。誰だって、自分のいる場所に貢献したいと思うでしょ。

今回、チームラボの国内初の展覧会を佐賀県で開催することになった理由を教えて下さい。

佐賀県の担当の方が呼んでくれたから。僕ね、お仕事に呼んでくれる場所が世界で一番好きなんです。だから、今は世界で佐賀県が一番好き!ついこの間まではシンガポールが一番好きだったけどね(笑)。

佐賀県とご縁やゆかりがあっての開催なのかと思っておりました。

縁はありますよ!今お仕事させてもらってますから。ゆかりとかは、あまり気にしないですね。でも、もしかすると生まれは佐賀市だったかもしれない。調べてみないとわからないけどね(笑)。

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誰にとっても面白いものは面白いし、気持ち良いものは気持ち良いですから。

一緒に作業を進める他のスタッフの方々と、どのようにイメージを共有されているのですか?

結構、みんなで考えますよ。ただ、うちの会社にわざわざ来てくれている人だから、大枠の方向は似ているんですよね。その中で、誰かが提示してそれに対して誰かが「それはおもろい」「それはすごい」と反応した時に、それを成功させるために、作っていく過程で見た目や体感を少しずつ調整しながらイメージを共有していきます。誰にとっても面白いものは面白くて、気持ち良いものは気持ち良いですから。

作品を作る上での、発端や過程のプランニングは猪子さんが考えられるのですか?

例題によって違いますね。『若冲の升目画』をモチーフにして作りたいというのは僕発信だったり、『Nirvana(ニルバーナ)』という作品に関しては「若冲展」という東京デザイナーズウィークでのデザイナー展の際に依頼を受けて作ったものだったり。

300名のスタッフさんがいらっしゃるとのことですが、制作段階に入る前の担当分けは、毎回猪子さんがアサインされるのですか?

その作品を作る上で、どういう役割のスタッフが必要かというのは、作る内容がある程度決まれば確定させられるので、そこからは各チームのリーダーが判断して、チームを組んでいきます。いつも僕のあまり知らないところで決まっていますよ(笑)。

アート作品は、”完成”という区切りを付けるのが難しいように思えるのですが、 そういった判断の基準を教えてください。

ほとんど完成はオープン日ですよ。その日までには絶対に仕上げなければいけないから(笑)。クリスマスの時も、キャナルシティ博多のクリスマスツリーを手掛けさせていただいたのですが、それぞれ専門の異なる10人くらいのスタッフで現場を担当していて、日々内容が変わっていったよね。でも、誰がクオリティ上げているのかなんて、もはやわからなかった。気づけば当初の予定から二転三転して、全然違う仕上がりになっていました。

依頼されて作るものをアートに昇華する上で、作る側としてのエゴとの境目は、どのように乗り越えられているのですか?

アート作品のほとんどは、クライアントのいない状況で作ることが多いですよ。展覧会に向けてとか。

受注案件で忙しい中、クライアントのいない作品を作るというのは大変ですよね。

大変ですね。でもたくさん作っていますよ。展覧会があると、出るか出ないかという話になってしまうので、出るって言うと、一応「納期」という目標があるじゃないですか。我々はこういうものを作りたいっていうのを予め宣言してしまっているから、計画が始動したらすぐに動き始めなければいけないんです。もちろん、納期が無い作品も作っていますけどね。今回出展する『追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点 – Light in Dark[work in progress]』とかは、もう2年くらい作っているかな。

その『追われるカラス』という作品は、今回佐賀県の展覧会にも出展されていますが、これは完成されたものですか?

そのつもりだったのですが、「work in progress(未完)」って書いてあるでしょ(笑)。完成の予定だったのですが、まだ何か出来るかもしれないって思って。これ佐賀県の人には秘密ですよ。

完成に至らなかった理由を教えて下さい?

一旦完成しても、次第にまだやりたいことが出てくるんですよね。細かいところなんだけど、やっぱりもう少し手を加えようって思ってしまうんです。

アートという領域がさらに進化したらいいなと思います。

チームラボの作品では、常に鑑賞者さえも作品の一部であるようなインタラクティブな面白さというものを感じるのですが、この「アルゴリズムを作る」という行為がアートの新たな方向性のような気がして、私たちはそこから未来を感じてしまいます。

今までただ鑑賞するだけだったアートを、お客さんがその空間に入って体感することで完成するようなものに変えたいと思っています。それにこの先、もっとデジタル化が進んで、アートという領域がさらに進化したらいいですよね。今回のような展示は、空間自体がアートになっていて、それに触れたことで羽化して生まれてきたものが、他に生まれてきたものと相互影響して二度と同じ風景が見えないような作品があったりするんです。

そういう意味では、全て「未完」と言ってもいいということでしょうか?

そうですね。ただ、僕たちは海外のアートマーケットで作品の販売もしているんです。作品として、売ってしまったら手を加えようがないので、言わばマーケットに出る日が完成日ですね。

ビジネスとしてアートマーケットの世界を見て、何か感じたことはありましたか?

アートは、サロン的な役割もあるみたいですね。これまで”美”として価値を認められてなかったものを、これは価値がある、これが”美”なんだと提案するでしょ。我々でいうと、デジタルそのもので作ったものが”美”で、鑑賞するだけじゃなくて、体感したり参加したりするのが”美”なんだと。作品を購入してくださる方は、そういう僕たちの考える”美”に賭けるわけですよ。そして、それが本当に”美”として認められた時には、それはすごい価値になっている。アートを買うというのは、「おまえが作る未来に賭ける」、「そっちの未来の方が我々もいいと思っている」という意思表示でもあるわけです。例えば、IT企業の社長が金持ちになった途端に有名ブランドを買い漁るのはよくないわけですよ。だって、その人はインターネット分野において、画期的なものを作ろうとしているわけじゃないですか。だから、全く違う分野であっても、何かを選ぶ際は既に価値を認められたものではなく、新しいものに賭けてみるべきだし、そこから自分の描く未来を他者に示した方がいいと思うんです。海外の人ってそういう思想を大事にしていて、自分が賭けている未来に対してみんなコミットしていますよ。そういう意味では、アートマーケットって作品を通して繋がることも出来るから、サロン的な出会いの場でもあるんです。

福岡の印象を教えて下さい。

福岡大好きですよ。佐賀の次に好きかもしれない(笑)。あと、結婚するなら福岡の女性が良いですね!福岡にはよく来るんです。去年のキャナルシティ博多の時もそうだし、今回の佐賀でも移動では、毎回福岡を経由するので。

福岡でお食事されることもありますか?

僕、福岡の食にはすごく詳しいんですよ。まずは、カレー鍋。あれは僕の中で福岡名物なんです。大名にある「坐離宮」のカレー鍋がとてもうまくて。そこにとろろ鍋もあるのですが、これもまたうまい。そのふたつの鍋が好きすぎて選べないから、必ずどちらも頼むんです。佐賀県の料理も好きですね。すごくトラディショナルな雰囲気のカフェに行くと、シシリアンライスっていうのメニューがあるんです。佐賀県の人からすると、あたりまえ過ぎて、佐賀県以外の県にないことを知らなかったりするくらい、まるで生姜焼き定食みたいな存在で。それも、とてもうまいですよ。同じように、普通に食べ過ぎていて地元の人が知らない福岡名物もたくさんありますよね。ごまさばとか、あれ福岡しかないですもんね。あとは、福岡の昔ながらな雰囲気の喫茶店に行くことが好き。そういうお店って、昔そこがどういう街だったかがにじみ出ているんですよ。だから、街ごとに喫茶店の雰囲気って全然違うでしょ。長い歴史が集積されているけど、荷物も集積されすぎて建物が倒れちゃうんじゃないかなんて思いながら、ついつい入ってしまいます(笑)。

最後に、作品展について一言お願いします。

巨大な空間の中で、映像が流れたり空間の中で触ることが出来たりと、なかなか普通の美術館だと体験出来ないような展示に仕上がりました。ひとつひとつの作品の規模が本当に大きいので、きっと楽しんでいただけると思います。佐賀まで遊びに来ていただけると嬉しいです。

INFORMATION

チームラボと佐賀 巡る!巡り巡って巡る展

『チームラボと佐賀 巡る!巡り巡って巡る展』概要はこちら
■日程:2/28[金]〜3/22[土]
■場所:佐賀県立美術館[佐賀県佐賀市城内1-15-23]
佐賀県立九州陶磁文化館[佐賀県西松浦郡有田町戸杓乙3100-1]
佐賀県立名護屋城博物館[佐賀県唐津市鎮西町名護屋1931-3]
佐賀県立宇宙博物館[佐賀県武雄市武雄町永島16351]

INTERVIEW

  • 猪子 寿之[Toshiyuki Inoko]
    チームラボ 代表取締役
    1977年、徳島市出身。東京大学工学部計数工学科にて確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。2001年の卒業と同時に、チームラボを創業し、現在約300名のスタッフを率いる。

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