AFRO FUKUOKA

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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2016.2.10 Wed

VOICE TITLE

vol.69 行定勲

映画監督

INTERVIEW

  • 行定 勲
    映画監督
    岩井俊二監督や林海象監督の助監督を経て、「OPEN HOUSE」(1997年)で長編映画監督デビュー。「GO」で、日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ国内外の50の賞に輝き一躍脚光を浴び、「世界の中心で、愛をさけぶ」、「北の零年」、「春の雪」、「クローズド・ノート」など次々とヒット作品を生み出す。また劇場映画にとどまらず浜崎あゆみや安室奈美恵などのミュージックビデオの監督や「ブエノスアイレス午前零時」、「趣味の部屋」、「タンゴ・冬の終わりに」など舞台演出も手掛けている。

TEXT BY

後藤 麻与
編集兼スタイリスト

香蘭ファッションデザイン専門学校卒業後、インポートセレクトショップ・広告デザイン会社のマーチャンダイザーを経て、現在は編集を中心にスタイリングまで行う。ファッションをより身近なものにしたいと願う良いお年ごろ。

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理性と本能の絶妙なバランス感覚が光る

ジャニーズグループ「NEWS」の加藤シゲアキによる処女小説『ピンクとグレー』が映画化され、現在大ヒット公開中。小説の人気による盛り上がりはもちろん、「世界の中心で、愛をさけぶ」や「北の零年」の行定勲監督による最新作とあって注目されている。また、脚本を担当する若手劇作家・蓬莱竜太とともに行定監督が原作を大胆にアレンジして再構成したということでも話題だ。行定監督のお話から、映画『ピンクとグレー』の魅力をあらためて紐解いてみたい。

監督は、本作のどういった部分に興味を抱きましたか?

メタフィクション性のある感じが気になりました。現役のアイドルであり、俳優でもある加藤シゲアキくんが書く世界なので、どこか自分自身を投影している部分があるのかなと。芸能界を目指している主人公達の生っぽさが良かったですね。少し危うさのあるキャラクター達の素顔が、真実味を帯びている気もしました。そういった意味で、加藤くんでしか書けない話をしっかり作り上げているなと思いました。それに芸能界の裏話というと、ともすればつまらない展開になるものだけれど、加藤くんが、本当の意味で切迫した状況や本音の部分をきちんと選択し必要なことだけを表現しているのがすごい。今回の作品は、芸能界ものなんですが、それっぽくないところがいいと思います。

とくに映像化してみたいと感じたところは何でしょうか

作品では、「虚構と現実」の世界を取り上げています。芸能界という虚構を自ら作り出すような状況にいると、人は自らその虚構を作り出しながらも、いつのまにか自分なりの真実が曖昧になってしまう。こういった部分って、上手くやれば、非常にミステリアスにも見えるものですよね。この映画の結末についても、個人の受け取り方によってストーリー展開にも可能性が広がるような気がしました。行間から広がっていくような小説は、いつになっても興味惹かれるものなので、そこを上手く形にしたいと思いました。

その時々のリアルな「若者」を書くことが上手いと思います。

第53回岸田國士戯曲賞を受賞し、演劇界の注目の若手といわれる劇作家・蓬莱竜太さんの魅力とは?

脚本を手掛けた蓬莱くんは、本当に素晴らしい実績を残している方です。じつは、彼と前から付き合いがあって、彼が書き、僕が演出するというコンビで、これまで2作品一緒に取り組んだこともあるんです。だから彼の芝居はここ数年ずっと見ていて、僕よりもすごく骨太な男らしいものを書く人だなと思っています。また現代の若者というよりは、総体的にどんな時代の人間であっても、その時々のリアルな「若者」を書くのが上手いと思います。

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本作でも、主人公達の学生時代の行き場のない気持ちや葛藤がよく表れていましたね。

そうですね。何だか抜けの悪い状況の中で、人間がのたうちまわるようなことを書くのが得意。鬱屈した人間を描くのも上手です。僕は、それを知っていたので、最初から「ピンクとグレー」を上手く、新しい方向性を見出してくれるのではないかという期待がありました。実際、小説を読んでから一発目の打ち合わせで、まず初校を見たんですが、すでに良質な青春映画のシナリオを書いてきたんですね。僕からすると、非常に上質な出来上がりで、プロデューサー陣も、「何かとても淡々としているんだけど、非常に人間関係やそれぞれの感情があぶり出されているようだ」と。大げさなことは一つもなく、無駄がないなとも思いました。

小説の物語を一旦全部解体して、パーツを入れ替えてみようかと考えたんです。

映画キャッチコピーにある「上映62分後の衝撃」は、どの時点で入ってきた内容なのですか?

人気スターとなった俳優・白木蓮吾が、「突然、死んだ」というシーンまで書き上がっていたところで、蓬莱くんが「もう一度打ち合わせをしたい」といってきたんですね。その打ち合わせ前に、僕はプロデューサーと打ち合わせをしていたんですが、僕らも今後の展開をどうしようかと話していたんです。そこでふと、今のこの「62分後の衝撃」の衝撃の部分がイメージできて、蓬莱くんが来る頃にはその説明をしていました。

ほんの少しの間で生まれたなんて奇跡的なお話ですね。

説明した時は、蓬莱くんも、プロデューサーもみんな目が点になっていました。複雑な内容だったので。実は、小説の物語を一旦全部解体して、パーツを入れ替えてみようかと考えたんです。入れ替えてみると、違う世界が見えてくるというか。原作は生かしつつ、後半の物語は、僕と蓬莱くん二人で作り上げていくような気持ちで挑みました。主人公には新しい道を歩ませ、解体したものを再構築していきましたね。

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一旦ゼロにして再構築する発想が面白いですね。

解体するといっても、一つひとつの場面を切り取った後、普通だったらこうなるんだけど、あえて一個違うラインを引いて新しい印象を与える感じです。小説が気に入らないから書き換える人もいるわけなんですが、僕らはそうではなくて。この小説へのリスペクトがありつつ、これをどうすれば、表現として広がりのあるものにできるかを詰めていきましたね。ご存知でない方も多いのですが、脚本家が作ってきたものを、監督がそのまま撮っているわけではないんですよ。さらに言うと、脚本家は、僕らが「こういうものをやりたいんだ」「こんな演出をしたい」「こんな場面が撮りたい」という要望をハッキリさせれば、そこに合わせたものの中で一番最上級なものを提案してくれます。新しいセリフを与えるとか、行動を与えるなどして心情をあぶり出していくという。映画の場合は、そういうことを考えるのが脚本家の仕事なんですよね。自分のひとりよがりで作っていくと、小説と全く違うものになったり、面白くなくなって全部書き直さないといけなくなりますから。

主演の中島裕翔さんの印象はいかがですか?

すごく素直な人。俳優としては、無駄なことが一個もない。自分をどう魅せたいとかがなく、つねにこちらに耳を傾けているのでとてもやりやすかったですね。それに、彼はアイドルという仕事を普段していますが、アイドルはとてつもなくすごい仕事だと思いますよ。そのプロフェッショナルな道にいる人だと思いました。

どういったところにプロフェッショナルなところを感じましたか?

アイドルというのは、いつも何となく違うもうひとりの自分がいるんだと思うんですね。それは、やっぱりファンの気持ちをばっと動かすことのできる自分を作り上げているからですよね。自分自身ではあるはずだから「役を演じている」とは少し違うんだけども、アイドルをやっている彼は、そこが面白いんですよね。普段から、自分のかなり振り切った力や状態を受け入れているところがいい。演技をする時というのは、その逆で、振り切っているものをどんどん、どんどん引き算していく作業ですから。何者でもない人間は、中身を盛らないともたないんですが、彼はもう存在感だけでもガン!と振り切っているわけなので、何でもできる感がありました。

役者自身が、その役のことを一番理解していないと。

劇中では、中島裕翔さん、菅田将暉さん、おふたりの演技に引きこまれましたが、何か監督からアドバイスされたところはありますか?

基本的には台本がありますから、台本をもとに、役者がそこで何を印象的に表現するかですよね。役者自身が、その役のことを一番理解していないと。演出家や監督の要望には応えられないと思います。僕は、「この人の場合はどういう動きになりますか?」という質問は、絶対受け付けないようにしています。演じる人間が、台本を読んで想像していたことをまず確立させることが役者の一番の仕事なんですよね。まず、それぞれの役者の考え方を教えてもらって、全体をひとつにまとめていくようにしています。

“現場力” が問われるということですね。

彼らが考える、自分の役の姿や状況がどんなものなのかが重要。菅田くんは、本当にほっといても自分の衝動をぶつけてきますね。シーンごとに様々な言動が出るので、それを受けて、僕が、もう少しこうしようとか提案して。何を言ってもチャレンジしてくれます。もちろん中島くんも、静かな存在感のようでいて、主張すべきところは言ってきてくれる。とくに彼の場合は、全く余計なことをしない人なので、やり取りがとてもシンプルでしたね。

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今回の作品に限らず、監督が役者に求めることは何ですか?

そうですね〜。やっぱり想像力ですね。顔の表情ひとつ、細かいところをこだわって欲しいなと思いますね。役について、まるで自分のことかのように思わせるくらいの演技をして欲しい。色々な感情を持ち合わせている人は素敵だなと思いますよ。

海外の映画祭、とくに「釜山国際映画祭」を大事にされているイメージがありますが、そこで得られるものは何ですか?

映画祭は他人に初めて映画を見てもらえる場所ですよね。素直な観客の反応や感想を知るにはとても良い環境だと思います。さらに国内だとね、例えば僕に対する先入観や役者に対するイメージが先行してしまうから、素直な意見を聞くのは難しいと思います。映画は、もっと純粋に見てもらいたいものなんですよ。「釜山国際映画祭」は、アジアの中で一番大きい規模のものですし、釜山に行けば多くの近隣諸国の人たちが僕の映画を目にしますし、口コミも広がる。映画祭に持っていくのは、僕の中では“必然”という感じです。

最後に、今回の作品の見どころを教えてください。

宣伝のキャッチコピーに、「始まって62分後に衝撃がある」と書かれているんですが、僕が知ってる中でも、これはあんまり類を見ないタイプの映画ですよ。結構大胆な仕掛けがあります。それによって役者が、変貌していくんですよ、全員。さまざまな人の感情が、違う角度からあぶり出されていくのを見ることができると思います。僕としては、映画の新しい扉を開けた気がしてるんですよ。若い方から、映画好きまで、すべての人が同じように62分後に衝撃を受ける。とにかく楽しんで欲しいと思います。この映画がどうだったかとか、見た後に話し合ってもらえたら嬉しいですね。見てない人とは語れないのが、映画の面白いところなので。それをぜひ、味わって欲しいです。

INFORMATION

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公開中 映画『ピンクとグレー』


幼馴染みの蓮吾と大貴。何をするにも一緒だった2人は、ともに芸能界へと足を踏み入れるが、どんどん大人気スター俳優の道を駆け上がる蓮吾に対し、大貴はエキストラから抜け出せない。そんな中、蓮吾が急逝する。蓮吾の死は自殺か、それとも他殺か。上映62分後、世界がピンクからグレーに変わり運命の歯車が回り出す。

■監督:行定勲
■出演:中島裕翔 / 菅田将暉 / 夏帆 ほか
■公式サイト:http://pinktogray.com/
TOHOシネマズ天神/ユナイテッド・シネマキャナルシティ13ほか全国にて公開中
2/13(土)~ T ・ジョイ久留米、イオンシネマ筑紫野にて公開
2/20(土)~ TOHOシネマズ直方にて公開
©2016「ピンクとグレー」製作委員会

INTERVIEW

  • 行定 勲
    映画監督
    岩井俊二監督や林海象監督の助監督を経て、「OPEN HOUSE」(1997年)で長編映画監督デビュー。「GO」で、日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ国内外の50の賞に輝き一躍脚光を浴び、「世界の中心で、愛をさけぶ」、「北の零年」、「春の雪」、「クローズド・ノート」など次々とヒット作品を生み出す。また劇場映画にとどまらず浜崎あゆみや安室奈美恵などのミュージックビデオの監督や「ブエノスアイレス午前零時」、「趣味の部屋」、「タンゴ・冬の終わりに」など舞台演出も手掛けている。

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