AFRO FUKUOKA

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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2017.2.2 Thu

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vol.75 篠山紀信

写真家

INTERVIEW

  • 篠山紀信
    写真家
    1940年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。在学中に広告制作会社「ライトパブリシティ」に入社、第1回日本広告写真家協会展公募部門APA賞受賞。1968年同社退社後フリーに。70年代には山口百恵らを取り続けた「激写」シリーズ、80年代には複数のカメラを並べて同時に撮影する「シノラマ」、2000年代にはデジタルカメラとデジタルビデオによる動く写真集「degi+KISHIN」等を発表。時代の変化とともに新しい表現や技法を開拓し続けている。2012年より、全国各地の美術館を巡回する個展「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」がスタート。

TEXT BY

後藤 麻与
編集兼スタイリスト

香蘭ファッションデザイン専門学校卒業後、インポートセレクトショップ・広告デザイン会社のマーチャンダイザーを経て、現在は編集を中心にスタイリングまで行う。ファッションをより身近なものにしたいと願う良いお年ごろ。

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自問自答から生まれる“表現の豊かさ”に触れる

現在開催中の展覧会、『篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN』。本展は、これまで回顧的な展覧会を拒み続けてきた篠山紀信さんが満を持して世に問う、国内美術館初の大規模な個展ということもあり初日から大盛況を博している。写真表現の可能性、さらには写真史を語る上で欠かせない篠山さんご自身の考える“写真力”とは一体何のことなのか、この機会に詳しくお話を伺った。

-2012年から開始されたこの展覧会ですが、篠山さんはこれまであえて展覧会という場を設けていなかったと他の記事で拝見しました。あらためて本展開催に至る経緯を教えてください。

美術館での個展は、ずっとやったことがなかったんですよ。長いキャリアのある人間が初となる“美術館で個展”なんていうと、集大成とか回顧展とか…“あいつも一丁上がり展”とかいわれかねない(笑)。だから美術館で個展をやっていなかったのですが、熊本市現代美術館の桜井館長が僕の写真に興味を持ってくださり、「美術館でもやってみたらどうですか」と。回顧展的なものになるようなことはしたくないと考えていたので、実際にやるなら一風変わったものをやりたいと思いました。

-とくにどういった点にこだわったのですか?

美術館という巨大なホワイトキューブに、“写真の力がみなぎっている写真”を集め、撮った者も、撮られた者も、それを観た人々も唖然とするような尊い写真をていねいに見せようと。なかなか難しかったですが、力のある写真をサイズも大きくして、5つのテーマごとに配置しました。従来の額装した写真を鑑賞してもらうのとは違うものになるのではと思いました。「空間力と写真力のバトル」をやることで一体何が起こるのか、これは実験なのだと、自らを試すような気持ちで回顧展や総集編にならないようなものにしました。

-誰もやっていないことに挑戦している、その姿勢に惹かれます。

この展覧会は、本当にやってみたかったことなんですね。写真をただ鑑賞するというのではなく、インスタレーションの中に自分の身を置いてみたら、どんなことを感じるのかなというのがありました。コンセプトが決まった後、写真の力が一番発揮されるのは何かと考えた時「人物写真」がいいなと。それも、みんなが知っている有名人がいいのではと思いました。あの人の全盛期を見る、あの人が当時何をしていたかを考えるのも興味深いのだけれど、自分がその時に何をしていたのかなどを思い起こすことができていい。その体験はすごく面白いことだなあと。鑑賞するのでなく、体感するというところが、これまでの展覧会と違うところかなと思っています。

-半世紀にも渡るキャリアの中からこの展覧会にふさわしい作品を選びだすというのは、とても大変な作業だったのではと思います。今回の作品は、どのような視点で決定されたのでしょうか?

写真力が一体何かというと、いろいろな力が働いて、偶然写真の中に引き寄せられた物事だと思うんですね。それは、意図的に作り出すことができなくて。たまたま条件が揃った時に、特別な一枚になるというか。本当に写真の神様が降りてきたのかしらと思うくらいですよ、なかなか降りてきてくれることがないですからね。とはいえ完璧にまぐれというものはなく、いつも衝動的にシャッターを切ればいいわけではなくて「意図的な偶然」を作りだす感じです。ある程度自分が細かい準備をしていた時にこそ、不意にすごい写真が撮れるということですよね。そういう写真ばかりを集めたのが、今回の展覧会です。

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展示作品より
ジョン・レノン オノ・ヨーコ 1980年

-各地、ゆかりのある人物の写真を展示されているそうですね。今回展示されている、福岡出身の蒼井優さん、妻夫木聡さんの写真についてお伺いしたいです。

妻夫木さんのは、最近の映画「怒り」のポスター写真です。「怒り」の監督というのはすごくこだわる人で、10テイクといわず何十テイクもずっと撮り続ける方なんですよ。役者としては、精神的に追いつめられる状況で、長い間その役になりきっていることが求められていたんですね。だから、ポスター写真の撮影でも、監督から妻夫木さんがその役に入ったままである状態を撮りたいといわれました。この時は、妻夫木さんではなく妻夫木さんの役(藤田優馬)を撮っていたんです。そしてああいう写真になったんですね。映画の役通り、ホモセクシャルな雰囲気、セクシーな雰囲気をまとっています。蒼井優さんは、舞台「サド侯爵夫人」のポスター写真です。こちらはその役と一切関係なく、彼女の魅力だけで撮りました。

-私は、蒼井さんに自然体なイメージを抱いていたのですが、展示作品の彼女はいつもより色っぽく感じました。

色気といっても、メイクをしていたからどうとかいうことではないですからね。蒼井さんの時は、スタジオの照明、人工的な光が何だか似合っていない気がしたから、外光で撮り直しました。スタジオの前の高さのある街灯を使って撮りたいと思ったんです。日が暮れてしばらく経ってからかな、街灯の光をたよって外の空気感とライトと真ん中にいる蒼井さんとの組み合わせをおさえました。そのバランスが魅力的に見えたのかもしれません。

-どういう風に撮るかというのは、事前にある程度決めていくものですか?

ロケハンとか、「こういうイメージで撮ろう」とかはあまり事前に決めないですね。決めてしまうと、その時にしかない空気や光、風とかがあるのに「こう撮らなくては」というイメージにとらわれてしまう。それは、イメージをなぞるということですから。それだと、写真としては弱くなってしまいます。僕は、雨が降ろうと、風が吹こうと構わず撮影するという全天候カメラマンなんです(笑)。その時にしか会えないものを撮るという感じです。

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-ポートレートにおいて、シャッターを切りたいという衝動にかられるのはどんな時ですか?

僕は、広告写真が多いから、自分の撮りたい人だけを撮るわけにはいかないんです。依頼側の要望や制約の中で、撮る人に対してその人の体調や天候気候によって、様々なことを考えながらその時の最善の方法で撮るようにしています。プロというのはそういう仕事でもありますからね。

-最後に、今回の展覧会の見どころを教えてください。

高い天井の美術館、白いキューブの中にある巨大な写真を見ることで、いろんな思いをめぐらせて欲しいと思います。これは行ってみないと分からない。とにかく体感してくださいということと、その空間に浸ってくださいということです。「どう見られたいか」や「どう見るべきか」というような質問をよく受けますが、それは全く関係ありません。自分が感じたものを感じとっていただけたらと思います。

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▲内覧会にて、自ら写真の説明をする篠山さん。

INFORMATION

『篠山紀信展 写真力』
▼イベント情報の詳細はこちら
http://afro-fukuoka.net/archives/culture_info/shinoyamakishinten2016

INTERVIEW

  • 篠山紀信
    写真家
    1940年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。在学中に広告制作会社「ライトパブリシティ」に入社、第1回日本広告写真家協会展公募部門APA賞受賞。1968年同社退社後フリーに。70年代には山口百恵らを取り続けた「激写」シリーズ、80年代には複数のカメラを並べて同時に撮影する「シノラマ」、2000年代にはデジタルカメラとデジタルビデオによる動く写真集「degi+KISHIN」等を発表。時代の変化とともに新しい表現や技法を開拓し続けている。2012年より、全国各地の美術館を巡回する個展「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」がスタート。

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