福岡の今をあれこれ更新
鹿児島出身。美術、料理、DIY。多趣味には24時間では足りません。 猫が寝床をつくるような部屋作りを日々実践中。
福岡市美術館で絶賛開催中の「不思議の国のアリス展」はもう観覧しましたか?
『不思議の国のアリス』の原点や、現代に至るまで、様々な分野に影響を与え続けるこの物語の魅力に迫る今展覧会では、作品もさることながら、展覧会を盛り上げてくれるコラボも気になるところです。今回は12/1[日]に行われた東大発の知識集団「QuizKnock」の伊沢拓司さんと志賀玲太さんによるトークイベントをレポートします!
QuizKnockとは・・・
クイズや謎解きを解いて能動的かつ楽しく学ぶことで「気づいたら知識がついている」をコンセプトとした知識集団。
現在、Webメディア・YouTubeチャンネルを配信中。
公式HP https://quizknock.com/
公式ツイッター https://twitter.com/QuizKnock
YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/c/Quizknock
─今回の展覧会とQuizKnockさんのコラボはどのようにスタートしたのでしょうか?
伊沢:アリスについて知る機会はあまりなかったので、学びを繋ぐ、0から1を繋ぐ、ちょっとした興味を持たせる仕事をしていますのでこの作品と僕たちの相性はいいんじゃないかなと思ったのがきっかけですね。
志賀:知ってるようで知らないことってクイズと相性がいいというか。そう言った点でもっといろんな方にお届けするお手伝いができるのではないかなと思ってコラボになりました。
─アリスの世界、改めて感じたことはありますか?
志賀:アリスは可愛いだとかファンシーだとかいうメルヘンな部分があると思うんですけど、やっぱり原点を見てみるとそれだけじゃないというか…。逆に奇妙で不条理な部分だったり、文学的で詩的な言葉の表現だったりもあって。こんな奥深い世界なんだとコラボするにあたって感じました。
伊沢:文化的な奥行き、懐の深さはすごいものがあるなと。この言葉もありで、この表現もありなんだ。逆にアリスの中にこんな他からの参照があるんだ!これって参照だったんだと。交差点に立っているイメージですね。キャロルという知識人の奥行きを感じましたね。
─クイズ作家的な部分のキャロルに感じるところはありましたか?
伊沢:難しいの作るなぁと思いました。
志賀:それは本当に思いました(笑)今回コラボでガイドブックにキャロル自身が作ったパズルを載せたいと思ったんですけど、どれも本当に難しくて、どうしようかなと悩みつつそのままのっけるっていう(笑)
伊沢:こういう作家さんいるなって(笑)だから超難問つくるのが好きなんだろうなと。ハイソ(上流階級)な方だと思うんですよね。ハイソをハイソなまま振りまいているっていうのがすごい。逆にそういうのしてみたいな。
─そうですよね。誰もがわかることも大事だけど、知ってるからこそわかるみたいな。
志賀:『不思議の国のアリス』っていう作品が、大人からこどもまであらゆる世界で親しまれるのと同時に文学的な深みがあるというところが、誰でもわかるところと難しいところをうまく両立できている作品だなと思っていて、そこがやっぱりこれだけ受け入れられている理由なんだなと実感しています。
─QuizKnockさんの正解率っていうのは?どれくらいの難易度なんでしょう?
伊沢:今回は正解を目的にしたクイズではないです。きっかけを与えるクイズです。これは気にしてなかったと、問いかけをするようなクイズなので少し難しくはなってますけど、展示を見ていただけるとスッと入ってくると思います。見ないで解くと2〜3割だと思うんですよね。3択だからいけなくはないんですけど、素で解くと難しいと思います。展覧会を見た後にこの冊子を見て解いていただくと正解率もあがりますし、逆に正解できないところを見つけることで「ちょっと見逃してたな」っていう気づきにも繋がります。
─アリス展の魅力や見どころはどういった点ですか?
志賀:挿絵だったりアリスに添えられる作品を網羅的に見られるっていうのが一番の見どころなんですけど、私としては第3部で芸術家の方が自分のスタイルを保ちつつアリスの世界観をどう表現するか、そういったところに重きをおいて作った作品がたくさん集まっているところにも注目して欲しいですね。例えばサルバトール・ダリが描いたアリスの絵本だったり、草間彌生さんの作品だったりとか、作家に限らず私たちがアリスの世界観をどう受け取っているかというところに作品を通して迫れるというところが今回のアリス展の魅力なんじゃないかなと思います。
伊沢:僕が見ていて思ったのが、自分の中のアリスに気づけるというところ。明示されていない状態で触れてきたアリスの文化に気づけるんです。これもアリスなんだ、自分の描いていたアリスってここからきてるんだなっていう。網羅的に見ることによって自分の中のアリスが複数の方向から照らし出されて、こうやって自分は見てたんだと気づかされるのが面白いかなと思います。だからこそ自分が今まで学んできたことにも気づける。それを解こうとするのが我々のクイズなので。そういう意味でも相性は良かったですね。
─印象が強かった作品はありますか?
伊沢:原画のアリスは少しイメージが違うというか、少し大人な顔付きをしている。髪の色もものによって違ったり。逆に言えば文学なので捉え方はたくさんあるなというところに気づける。それを改めて実感できるのが第3部で作家さんが思い思いのアリスを描いているところ。一流の作家が思い思いの解釈で作るとこんなに幅が出るのかと。作品全体の幅で見ると面白いですよね。
志賀:シュヴァンクマイエルという映画監督の作品ですね。彼は非常におどろおどろしいというか少しグロテスクな作品を作る方なんですが、今でこそファンタジーとか可愛いというイメージのあるアリスですが、もしかしたら本当はこういう世界なのではないか、不条理で何かが渦巻いているような世界がアリスにあるんじゃないかなとハッと気付かされる作品でした。
─アリスの世界観というのは人生と共感する部分が作品によって変わってくるということですね。
志賀:そうですね。三者三様というか。それぞれの受け取り方があって今でも多くの人に親しまれている。こんなに多くの人がアリスに親しめているのって自分が考えている面白いこととか、普通じゃありえないんだけど愉快なところとかに届いてくるんだと思います。
伊沢:僕は共感できないところを楽しんで欲しいなと。不条理でありえない世界、リアルじゃないことが起こっているんですよ。それを自分に重ね合わせてしまうとスリリングが起こるんですよ。え?どういうこと?ていうことを曖昧にしないで見ていただきたい。第2部でストーリーについて展示しているのでアリスについて知らない方は、なにが起こったの?というびっくり感を大事にしてほしい。
志賀:私も今回の機会に読み返していて何が起きているんだと本当に感じていて、その親しみやすさと不条理さの二面性があるところも魅力なのかなと思います。
─初めて不思議の国のアリスを読んだ時と大人になって展示を見てアリスに対する目線は変わりましたか?
志賀:変わりますね。母が図書館司書だったこともあって幼い頃から本に触れてきて、おそらくアリスを初めて読んだのは小学生くらいのときでしたね。今回コラボをするにあたって読み返してみたんですけど、やっぱり感じることは全くちがって。最初に感じたのはこんなおかしなものをこどもたちが受け入れているのが信じられないというか、これだけ広まったのはなぜだろうというくらいの怖さがあるなと感じて。そのおかしさがこどものときには逆にうまくハマるのかなというか。
伊沢:物語的な懐の深さとか、読むたび見るたび違うことこそがアリスの魅力なのかなと思いますね。当たり前のように違うぜっていうのを前提にした展覧会にしてほしいなと思いますね。もう深すぎてどこに注目するかによって見方が違うので、そもそも一つのものとして捉えられないところが魅力な気がします。
志賀:そうですね。こどもの頃アリスを読んだ時に感じた感情ってこれは自分のための物語なんだって。自分だけはこの世界にいられる感覚があったんですけど、今回執筆のために深く読み進めて、そこにあったのは普遍性というか、昔書かれたものなのに新鮮さがある。個人個人にまるであなたのために書かれたと感じるような魅力があるのかなと今回読み直して実感しました。
─今回音声ガイドでクイズを出されていますが、どうやって考えられたのですか?
伊沢:あくまで展示がメインなので、問いかけというか。ここ見てた?ここ気にしてなかったでしょ?という問いかけを添えるというイメージで今回作成しました。
志賀:問いかけることで展覧会をもっと楽しめるようにとクイズは考えました。
─今回、魅惑のワンダーランド編とクイズバトル編と二つの音声ガイドがありますが、どちらがおすすめですか?
志賀:ここは悔しいところで、魅惑のワンダーランド編もぜひ聞いてほしいんですけど…
伊沢:当然両方聞いてほしいです!僕たちのクイズバトル編は問いなおしですけど、魅惑のワンダーランド編は展示に沿うような内容になってるかと思います。1回目はワンダーランド編でもいいかもしれないですね。だからこそ2回来てほしいです!2回目は我々のクイズ編を聞いていただいて!
─クイズを作るにあたって一番テンションが上がったところはどこですか?
伊沢:最初にデザインを見た時に、見やすさ楽しさを両立できるレイアウトがあるんだというところが良かったです。内容的には難しいものも扱っていますし、クイズもたくさん入っているのでどのくらいの温度感で作っていくのかが難しい作業になるかと思うんですけど、形式が好きなところから始められて好きなところで終われるっていうのがアリス的ですよね。
志賀:制作的なところで言うとアリスの物語から脱線したところを書くのは楽しくて。ヴィクトリア朝時代の文化背景だったり、アリスの物語に触れてそこを説明できるっていうのが別の分野に繋げていけるんだなと実感して書けたのが楽しかったです。
─どれをクイズにしようかとディスカッションしたときのテーマはなんだったんですか?
志賀:簡単でも難しくてもその後の理解のきっかけになることを第一に考えています。今回冊子に載ってる問題って難しいものが多いんですけど、後から解説を読んだりだとかを踏まえて何か一歩でも私たちが伝えたいこと、アリスの本質に近づける問題というのを意識して作りました。
伊沢:普段答えが大事なクイズが多いんですけど、今回問いが大事なクイズになっています。読者自身の中で完結してほしい世界なので、我々は問いかけることで一石を投じるくらいのポジションで。意識間の転換が作る上で大事だったかなと思います。
志賀:一つ例を挙げると日本語で翻訳されているところが原文でどうだったかを問うクイズがあるんですけど、答えが大事ではなくて、英語を日本語で翻訳として広めるために何を変えなきゃいけないだとか、どう意味を保ったまま訳すとかに目を向けてもらえるとアリスは特にいろんな翻訳がありますのでそこを知ってもらいたいですね。
─アリスだけじゃなくて他の展覧会もやってほしいですね。
志賀:ぜひぜひ(笑)
伊沢:アリスに助けられたところはたくさんありますね。懐の深さというか文化だとか、いろんなところからもってくることができましたから。別のところでやるのであればまた別のアプローチを用意することはできます。与えられたもの見つめなおして役割を変えていくというのが次やるならですね。
志賀:あくまで事実に沿っているものですので我々はどうやって事実を伝えるかっていう部分でしか手伝えないですけど、そういうのが音声ガイドだったりを使って理解の深さ、鑑賞の深さに繋げられるのかなと実感できたのが展覧会のよかったところですね。
─このコラボで他の活動にプラスになっていることはありますか?
伊沢:会社としての内政能力の高さ、コンテンツを作る力というのを見ていただければ。今回の『不思議の国のアリス』のようにある一つのテーマに基づくコンテンツは初めてで、自分たちの中で高められたことに意味がありますし社会に持っていってこんなものができますよっていえるようになることに価値があり、僕たちの成長にもなりました。
─福岡は何回目ですか?
志賀:初めてです。九州自体も初めてです。昨日来て今日帰るのが惜しいくらい。
伊沢:今年4回か5回。毎年複数回は来ているんですけど最初は吉富町で講演会で呼んでいただきました。今年もサイン会で来たりとかほぼ講演会で来てますね。毎回攻略しようと思ってくるんですけど懐の深さにまだまだ全然福岡の知らないなって言って帰ります(笑)
─福岡での印象的な思い出はありますか?
伊沢:以前サイン会と講演会をさせてもらった時、書店のフリースペースでやったんですけど、学校帰りのたくさんの中高生たちがチケット持ってないのに本棚の間から盗み聞きしてくれてるのが嬉しかったですね。すごくあたたかく迎えていただいたなという感じですね。
志賀:昨日の夜初めて福岡に来てめちゃくちゃおいしい水炊きをいただいて、福岡の飯ってこんなにうまいのかと。今まで食べてた鶏はなんだったんだと(笑)福岡市美術館も初めて来たんですけど、コレクションもすごく充実してて、特に現代美術において1点1点本当に良いものが置いてあるなと思いました。あのレベルの作品を見にこれる福岡市美術館自体もすごくいいなと思っていてそこは驚きでしたね。地元の方で行ったことなかったらもったいないですね。
─今回構成からすべて考えられたんですか?
志賀:デザインだけしてもらったんですけど、構成から執筆まですべてやっています。
─苦労した点はありますか?
志賀:めちゃくちゃ苦労しました。すごく裾野が広い作品なので本を読まなくてはいけない文献も多いし、幼い頃から読んではいたけどそれは日本語のものだけだったので、翻訳について考える時には原文を読まなければなりませんでした。ピンポイントでどういう表現になっているかを参照しなければいけないし。そういうところが大変でしたね。膨大な資料の中からどれがQuizKnockと絡めておもしろく伝わるか。それにアリスやキャロルの重要なことを伝えられるかを選定するところが一番大変でしたね。
伊沢:僕は原稿書くのではなくマネージ側なので。学術的なところに踏み込むので普通の会社とちがってこの時間で終わりとかがないんですよね。入り込んだ作業の時は時間が予想よりかかってしまう中で、他の外から入ってくる仕事とのバランス感をとるのが大変でしたね。
─どのくらいの期間がかかりましたか?
志賀:去年の夏にお話をいただいてでき上がったのが今年の2月か3月くらいですね。今回冊子のコンセプトを決めるにあたって、QuizKnockでクイズだから少し優しめだったり入門という形でわかりやすいほうがいいのかなって考えはあったんですけど、これ1冊でアリスマニアを名乗れるような自慢できる冊子を作りたいなと思いはじめて、それが結局一番大変な原因だったんですけど苦労してよかったなと思う点でもあります。
─リアル脱出ゲームともコラボがありますが感じたことはありますか?
伊沢:各所各所の展示の違いもありますし、入り込んで行ける要素がたくさんあったので実際体験してみて面白いなと思いました。
志賀:私は挑戦してないんですけど、謎解きで何時間も滞在しただとかいうお客さんの声も聞いているのでちょっと悔しいなと思いつつ(笑)美術館で問題なのがサッと見てしまうというか、うまく飲み込めないまま終わってしまうことだと思っているので、謎解きやクイズが理解を深めるのに役立っているのは良いところだなと思います。
─今回はすごく幅の広い世代で楽しめそうな展覧会になりそうですが、お客さんの反応はどうですか?
伊沢:成人以上の方が多くて、普通の展覧会よりこども少ないかなと思いますね。でもお子様でも見られる内容なんですよ。お子様だからこそビジュアルの新鮮さにビビッとくるところもあると思うのでぜひ家族で見ていただきたい。でも家族一緒じゃなくていいんです。むしろバラバラのタイミングで見てそれぞれの楽しみ方で楽しんでほしいです。
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