君の名は。』の公開を記念し、新海監督、神木さん、上白石さんにお話を伺った。">
VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。
編集部のKISS
『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』など、郷愁を誘う美しい風景描写と、移ろいゆく登場人物たちの繊細な心象を綴る日本的な言語感覚で、若い世代を中心に絶大な支持を集める気鋭アニメーション監督・新海誠監督の最新作がついに待望の公開を迎える。作画監督、キャラクターデザイン、映画音楽etc...。様々な才能が集結した本作で、主人公の声を演じるのは、自身も新海作品の大ファンであることを公言する俳優・神木隆之介さんと、オーディションでヒロインの座を射止めた女優・上白石萌音さん。豪華な制作陣にも注目が高まるアニメーション映画『君の名は。』の公開を記念し、新海監督、神木さん、上白石さんにお話を伺った。
新海:今作は“バランス”。これに尽きると思うんです。お一人お一人、とても才能のある方が集まってくれました。それはもちろん、神木さんや(上白石)萌音さん、市原悦子さんや長澤まさみさんといった声のキャストもそうですね。音楽ではRADWIMPSが参加してくれて、キャラクターデザインは先ほども話に出た田中将賀さん。そのキャラクターへ安藤雅司さんが的確に芝居を付けてくれました。
新海:とにかくお一人お一人のアウトプットのレベルがとても高い。個々がそれだけで一つの世界観を持っているものなので、それをいかに107分間の時間軸の中に上手く並べるか、ポテンシャルを引き出すか。そういう“バランス取り”のようなものに、僕の仕事は結局のところ終始していたような気はします。まず一番最初に僕が設計図を作って、一応はその設計図に沿うような形でみなさんから色々なものをもらうんですけど、やっぱり、一個一個が強くて、設計図からはみ出るくらいの情報を持っているんですね。なので、それらを最適化してどのように並べていくか、最後まで一コマ単位での調整をずっと続けました。大変さもありましたが、楽しい仕事でした。
新海:今までの作品はビデオコンテがあって、それがそのまま最終形に近かったような。今回に比べればそんな気がしますよ。『君の名は。』もビデオコンテで一度は完成させたつもりだったんですけど、そこからのジャンプが今までより一番大きかった。ストーリー自体は変わらないんですけど、台詞回し一つ取ってみてもそれは明らかで。例えば萌音さんの「私だってバイトしてるし」って三葉のセリフや、神木さんの演じた瀧が奥寺と接してるシーンで「ふふふふ」って笑って、「今日はありがとうございました」という瞬間の感覚って、僕の中には無かったんですよね。それは2人の声が実際に出てくるまで、存在しなかった情報なんです。そういったものが制作のなかでどんどん積み重なっていきました。
新海:そうですね。「まだ先がある、まだ先がある」って、制作が進む度に目指す頂上が上がっていったような感覚がありました。
新海:極端なことを言ってしまうと、音楽って映画の半分だと思っています。劇場を出たあと頭に鳴ってるのってやっぱり音楽だと思うんですよ。それも、エンドロールの音楽だったり、あるいはメインとなるテーマ曲のメロディーだったりする。お客さんが家に持ち帰るのは音楽だと思うし、本当にそれは大事なものです。僕自身、音楽家じゃない分、そこの憧れが強いのかもしれませんね。
新海:RADの曲も元々本当に大好きだったんですけど、今回の映画の音楽どうしよう?という話なったときに、「好きなのはRADWIMPSだよ」みたいな感じで気楽に言ったらトントンと繋いでもらっちゃって。えらいことになったなあって(笑)。 でも、RADのフロントマンの野田洋次郎さんとは、最初からお互いに「やりましょう」っていうモードで会ったような気がしますね。振り返ってみると1年半をこの映画の音楽に費やしてくださいました。僕らもRADから上がってくる曲を聞きながらビデオコンテを組み立てていったりもしましたし、やはり映画と音楽は切り離せないものがありますよね。彼らの音楽から、色んなものをいただきました。 それにボーカル曲もね、4曲あるんですよ。オープニングの「夢灯籠」って曲と、「前前前世」と「スパークル」と「なんでもないや」。二人は4曲のどれが一番好きですか?
神木:(即答)「夢灯籠!」
新海:オープニング。即答ですね(笑)。「夢灯籠」はRADの中で一番短い曲かも。CD版も劇中と一緒で、2番とかはないんですよ。
神木:あれだけなんですね。
新海:あれだけ。まさに『君の名を今追いかけるよ』って終わる歌詞だから。映画を象徴する曲かもしれない。神木さんは「夢灯籠」なんだね。萌音さんはどれ?
上白石:うーーーん。「なんでもないや」です。曲が流れてくるあのタイミングといい、曲と映画との世界観のはまり具合といい、すごく凝縮されているような気がしますね。
新海:『少しだけでいい あと少しだけでいい あと少しだけくっついていようよ』。
上白石:きゅんとしますよね〜。
新海:うん、切ない(笑)。
上白石:やっぱりもう、全部好きです。すみません(笑)。
監督の作品から受けた衝撃はまさに運命的で。芝居でも参考にさせていただいています。(神木)
神木:それこそ「秒速」と出会って変わりました。
上白石:愛が深い(笑)。
神木:今の芝居にもすごく参考にさせていただいているんです。僕は、「秒速5センチメートル」の主人公の貴樹にすごく憧れがあります。何もないところでもがいているような、何かに手を伸ばしたいのにそれが何なのかわからないような。だけどとにかく前に進まなくてはならないという焦りだけがある。そんな何かが欠けているような気持ちの時の貴樹の表情がすごくて。僕もよく真似するんです、歩いているときとか(笑)。何となく「こんな感じで歩いてるのかな」と。あと、モノローグのひとり語りも。エレベーターの中で鍵が落ちて、黙って見ているというのは衝撃的でした。
新海:う〜ん、まあ(笑)。
神木:あの冷めた表情というか。冷めているだけではなくて、何かこう、“冷めたこと”を思っているような…。アニメーションであれほどまでに、受け手に解釈を委ねるような曖昧な感情を表現されていたので、僕も繊細な表情の動きで感情の揺らぎを演じる芝居では貴樹をイメージしているんです。
新海:嬉しいな(笑)。「秒速」は何も起きない作品なんですよ。基本的にはただ道を歩いてたり、エレベーターに乗ってたり、部屋に佇んでたり…ってだけなんで(笑)。そういう画から、役者さんが何かを引っ張り出してくれたのであれば、それはとても幸せです。作ってよかった。
神木:信じます!
上白石:私も!
新海:あぁ、信じる派が多い。
神木:多分、信じるという人は「運命は自分で作って変えていくものだ」という考え方と、「運命は何となく決まっているけど、自分の選択によって肉付けされていく」という考え方の二手に別れるのではないかなと思うんです。
上白石:私は運命は何となく決まっていて、その上を選択していく派。
神木:僕も基本的にその考え方です。大体決まっているんだろうなと思います。大きい道筋が一本あって、その一本の上には細々とした選択肢がいくつもある。でも最後は決まった終着点にたどり着くんだろうなって。
新海:萌音さんは?
上白石:そうですね。私が大学受験した時の心の支えになっていたのが、「もうこれ以上ないってくらい一生懸命やっていたら、必ず自分にとって一番いい道へと進むことができる」っていう考え方なんです。例え、それが合格であろうと不合格であろうと、それが自分にとってベストな道だって。 進む道は、その時点で多分もう決まっているんです。そこへ向かって“頑張る”って選択肢を選んで運命に足していってる。その考え方が大きくなったのが受験期間だったので。完全にこっち派です(笑)。
神木:監督はどうですか?
新海:洋次郎さんも「俺、意外に運命って信じるんだよね」って仰ってたんですよ。だから洋次郎さんはそっち派だと思うんですけど、僕自身はやっぱりよくわかってないところがあって。みんなは役者であったり、シンガーであったりするから、そこを強く感じるところがあると思うんですけど、僕は今でも長野の実家に暮らしていて、もの作りとは全然違う仕事をやってる自分がどこかにいるような気がするんですよね。そっちもあり得たなっていう気がして。あるいは退職しないで、前職のゲーム会社でずっと働いている自分がいるような気がするし、そっちもあり得たなって。だから、運命はよくわからない派です。(笑)
神木:貴樹みたいですね(笑)。
新海:未だにふわふわしてる。ただ、こうじゃなかった自分みたいなものも、折に触れて考えてしまうんです。『君の名は。』で言うと、瀧に出会わなかった三葉っていうのもどっかにいるような気がして。それだとちょっと悲しい話になってしまいますけど(笑)。
新海:そうですね、そんな感覚が常に。でも、物語作りってそれに近いのかもしれない。こうじゃなかった彼が。あの時こうしなかった彼が。きっと色々なところに存在していて。僕らはそのなかの一側面を切りとって描いているんです。
映画『君の名は。』
千年ぶりとなる彗星の来訪を一ヶ月後に控えた日本。山深い田舎町に住み、都会への憧れを抱き過ごしていた女子高生・三葉は、ある夜、東京の男子高校生になる不思議な夢を見る。見知らぬ環境に戸惑いながらも都会の生活を謳歌する三葉だったが、東京で暮らす男子高校生・瀧(たき)も、行ったこともない山奥で、自分が女子高生になる夢を見ていたー。
■原作・脚本・監督:新海誠
■声の出演:神木隆之介 / 上白石萌音 / 長澤まさみ / 市原悦子 ほか
■公式サイト:http://www.kiminona.com
2016/8/26[金]
TOHOシネマズ天神 / ユナイテッド・シネマキャナルシティ13 / T・ジョイ博多 ほか全国ロードショー
©2016「君の名は。」製作委員会
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