誰に対しても懐こくて、いつも笑顔のマコトくんと、
若いけれどしっかり者のマリちゃんは、付き合ってまだ1ヶ月。
今日は、ふたり初めてのドライブデートへと出かけます。
行き先はマコトくんの地元、長崎。
福岡を代表するフリーペーパーの編集部で働くマコトくんは、
いつも仕事に追われて、なかなかゆっくりとふたりの時間を作ることができません。
なので、この日のデートを最高のものにするために、
マコトくんは仕事で鍛えたリサーチ力で、
いま一番のロケーションをマリちゃんにプレゼントすることにしました。
マリちゃんは喜んでくれるかな?
さあ、ふたりの初ドライブ、スタートです。
今日は少し遅目の時間の待ち合わせ。
マコトくんがレンタカーを借りて迎えにくるって言ってくれたから、
私は車を停めやすい家の近くの橋の上で待機中。
…約束の時間、もう過ぎちゃったけど、まだ来ない。
……昨日も遅かったやろうし、もしかしたら途中で事故…なんてないよね?
………いや、ないない!そんなことあるわけないやん!バカ!私のバカ!
なんて、不毛なことを考えていたら、申し訳無さそうにマコトくん登場。
「ちょい!遅いやん!」
「ごめんごめん!車でお腹空いた時のために、
デパ地下で今一番人気のシュークリーム買おうと思ってつい行列に並んで、
焼きあがるまで小一時間!ほんとごめん!」
「…もう。バカ☆なんてリサーチ力☆」
何はともあれ、マコトくんが元気でよかった!さあ、出発出発!いざ長崎へ!
博多から車で約2時間。マコトくんが連れてきてくれたのは長崎グラバー園。
ずいぶん久しぶりに来た気がするなー。いつぶりやろ?小学校の時以来かな?
それにしても、やっぱりあのころの印象とは違うね。
長崎の街、海。ここから、こんなに見渡せたんやね。
夕日が海にキラキラ反射して、すごくキレイ。
あれ?マコトくん、なんかそわそわしてない?
「マコトくん、どしたと?」
「いや、グラバー園。ひさしぶりやけん、なんか楽しくなっちゃって!
ほら、あっちにアレがあるよ!アレ!あの〜、、、
謎の!謎のやつ!何〜ソン?何〜ソン?」
「…もう!フリーメイソンやろ!」
おいおい!今日はキミが私をエスコートしてくれるんやろ?
なんでキミが一番楽しくなりようとよ!もう!かわいいなあ☆
続いて向かったのはグラバー園の名前の由来にもなった、
旧グラバー住宅。
貿易商だったグラバーさんが住んでいた
日本最古の木造洋風建築なんだって。
にしてもマコトくん、さっきからキョロキョロ、
グラバー邸に夢中になりすぎやろ!
もっと見て!私のこともっと見てよ!
「マリちゃん、知っとう?グラバーさんって、
日本のビール産業を確立した人なんよ。
あの有名な麒麟のヒゲは、グラバーさんのヒゲなんやって。ぬはは…」
な〜にが「ぬはは…」よ!もう!賢いなあ!この雑学王☆
「このグラバー住宅、世界遺産の候補に選ばれたらしいよ。
世界遺産になったら、また来ようね、マリちゃん」
…うん、来る。
…ぬはは☆
パンフレットをタッチすると音声案内が流れるガイドペンを使って、
マコトくんと仲良く園内をデート。
こうしてふたりでひとつのパンフレットを見ながら
ルートを歩くのって、なんかゲームみたいで楽しいね。
「マコトくん、こういうの好きやもんね」
「うん!ばり好き!ばり楽しい!」ていうか純粋すぎるやろ!子供か!
「ヘ〜イ!ハートストーン!」純粋すぎるやろ!子供か!
「ちょい。マコトくんさあ。そういうのは、彼氏が見つけても、
普通知らんぷりして、女の子に見つけさせてくれるもんやないとかね?」
「ごめんごめん!嬉しくて!」
「ふふふ。楽しそうで何よりですわね」
「ヒャ〜!怒った?」
「怒ってないよ(笑)。さ。次の場所、行こ!」
そろそろ日暮れ。長崎の街にも夜が降りてきた。
今日まで知らんやったけどグラバー園もライトアップ、しとるんやね。
マコトくん、忙しいのに私のために調べてくれたっちゃろ?
ありがと…って、マコトくん!口!口開いてるよ!
イルミネーションに集中しすぎやろ!
んもう!羽虫が入っても知らないゾ☆
「たくさん歩いたけん、ちょっと疲れたんやない?ガーデンカフェで休憩しようか」
マコトくんは気配りの人やね。そういう優しいとこ、素敵よ。
「ここね、グラバー園のイルミネーションのメインステージなんやってさ。
光と音楽のショーが見れるみたいよ」
へー!さすがのリサーチ力☆そういう詳しいとこ、素敵よ。
「あ、始まったみたい」かろやかな音楽の調べときれいなイルミネーション。
うん、こりゃ楽しいね。よし。記念撮影、記念撮影☆なかなかうまく撮れたんやない?
「見て見て!どう?マコトくん」
「あ〜…手ブレはしてないけどちょっと露出が下がり過ぎかな。
イルミネーションなどの背景と被写体の明るさに差があるモチーフを撮るときは
マニュアルで露出をコントロールした方がいいね
あと夜景などを撮る際はシャッタースピードが遅くなりがちだから
出来る限り三脚を持参するのがベターかなでも三脚を使う時は
周りのお客さまの迷惑にならないようにしないとね
三脚が使えない観光地もあるから事前に確認しておくのがおすすめだよ
その場合だと手持ちで撮影しなければならないからISO感度を上げることをお忘れなく
僕も仕事柄よく写真を撮ったりするけど」
「…うっさい!」
でも、何にでものめり込んでしまう熱いとこも、素敵よ☆
園内のきらめく光をたどって、いよいよあそこが最上部やね。
「マリちゃん、いつも忙しくて、なかなか会えなくてごめんね」
「何?急に」
「編集の仕事ってさ、いつも何かに追われていて、
スタッフのスケジュールを調整しながら撮影日の香盤を組んだり、
バタバタのなか撮影商品のリースに走ったり、
いきなり小説風の原稿を書いてくれって言われたり」
「何?急に」
「結構無茶なことやったりするわけだけど、
その記事を読んでくれる読者が喜ぶ顔を想像するとさ。多少辛くても楽しいし、頑張れるんよ」
「何?急に」
「あの〜、つまりアレね、アレ。…僕ね、編集長になります」
「えっ!何?急に!出世!」
「もしかしたら、また忙しくなっちゃうかもしれんけど…」
「何言いようとよ!おめでと!よかったね!マコトくん。最新号が出たら、設置場所の冊子、全部もらって帰るよ!
いや、そしたらみんなのお手元に届かないからダメか…じゃあ配る!ばり配るけんね!」
「…ということで、これから、編集長として読者のみなさんに喜んでもらえる誌面を作っていこうって思いよる。そんで…」
「そんで?」
「男として、マリちゃんに喜んでもらえるよう、立派な男になるよ」
男として男になるって文章、変やろ!校正し直してきなさい!※校正…文字や数字など誤植がないかをチェックする作業
でも、ありがとう☆
「今、僕が一番マリちゃんに見せたいって思った景色がここ。僕の編集長としての最初の企画だよ」
「うぐぐ…ロマンティック!」
そこは眩い程に光輝く長崎の夜。
香港、モナコと並び世界新三大夜景に認定された長崎の街並みが広がっていた。
グラバー園の丘の上から覗く世界有数のこの眺めを前に、私は思わず息を飲む。
マコトくんとふたり、ずっと仲良くいられますように。
流れ星は見つけられなかったけど、
長崎の街を流れていく車のライトにそう願った。
Yes!Happy End!
この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
しかし、長崎の夜景やグラバー園のイルミネーションなどの記述に関してはノンフィクションです。
実在の人物やうんちくなどは色々調べて書いています。