AFRO FUKUOKA

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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2009.11.1 Sun

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vol.15 江藤公昭

PAPIER LABOディレクター

INTERVIEW

  • 江藤 公昭[Kimiaki Eto]
    PAPIER LABOディレクター
    1977年福岡生まれ。東京都渋谷区千駄ヶ谷にあるショップ「PAPIER LABO.」設立メンバー。2007年、活版印刷の復興と紙にまつわる実験の場として、高田唯、武井実子とともに、「PAPIER LABO.」をオープン。このショップでは、独自の視点でセレクトされたステーショナリーや、活版印刷をメインとしたオリジナルのペーパープロダクトを販売。また名刺などの活版印刷のオーダーの窓口としても機能している。紙が好きな3人のディレクターが集まり、それぞれの得意分野を活かして、紙と活版印刷というアナログなモノと手法を用いて、実験的な活動、ショップ運営を行っている。 ※活版印刷とは、活字を組み合わせた版で印刷する昔ながらの印刷方法。印刷のデジタル化により今や失われつつある技術だが、職人による手作業ならではのアナログな質感や、徐々に馴染んでいく風合いを増すというその使い心地が見直されてきている。

    PAPIER LABO
    www.papierlabo.com

TEXT BY

STAFF
AFRO FUKUOKA

福岡の情報ポータル&ウェブマガジン

10093

うつわを見るような感覚で紙に触れられるスペースができればという想いから、スタートしました。

まずは、パピエラボについてお聞かせ下さい。

パピエラボをオープンしたきっかけは、世田谷区の生活工房で開催された「活版再生展」という展覧会でした。その以前は僕らでさえも、そこまで活版印刷を詳しく知らなかったんです。ただ「凹んでいて擦れている味のある印刷物のこと」くらいのイメージで、僕らはそれが単純に好きだったわけですが、どこで作られているのか、どういった製造工程をとっているものかという知識はありませんでした。活版印刷は流通していなかったんですね。展覧会をするきっかけは、生活工房がとある活版印刷所がなくなる時に印刷機械一式を譲り受けたことです。機械があるなら、イベントをしようという思いつきからはじまりました。 準備期間には、色々な方からの口コミを聞いて、活版印刷について調べて回りました。そうするとまだ活版印刷は出来るとわかったのですが、すごく閉鎖的な世界ということにも気がついて。訪れた活版印刷所はすりガラスで覆われていて、店内には金額表示すらないんです。接客サービスをする場所ではないので、オープンな場所ではないわけですが……その時僕も、扉を開けるに至らなかった。ただ「活版再生展」をやってみると、まだ面白い可能性のあるものだと感じました。老若男女問わず、イベントの動員数がとても多く、活版に対する見方が千差万別にあるのだと実感しましたね。同時に、「このままだと活版印刷は廃れていく」という危機感も感じました。だからもっと〈開かれたショップ〉というスタンスで、活版印刷のことをよく知らない人でも入りやすい空間をつくろうと思ったんです。活版印刷という技術は知らなくても「味のあるものが好き」という人に、例えばうつわを見るような感覚で紙に触れられるスペースができればという想いから、パピエラボはスタートしました。

2007年のショップオープンから「活版印刷」に対するイメージは、どのように変化したと感じていますか?

パピエラボでは、週に1人でも2人でもいいから名刺を印刷してくれたらいいな、という気持ちでスタートしました。それが意外とご要望が多く、今は1日に1人のペースで印刷をしています。本当に活版印刷のことは知らないけど、そういう印刷物もあるんだと見直してくれる機会をつくることが出来たと思います。御来店された方には、単純に「この紙ものっていいよね」と思って頂けているようで嬉しいです。

私はパピエラボでも取り扱っている「立花文穂」さんの作品がきっかけで〈紙もの〉に興味を持ちました。江藤さんはどういったものから〈紙もの〉を意識しはじめましたか?

(江藤さんが所属されている)ランドスケーププロダクツという会社では、プロダクト等のデザインも担当していたのですが、コンクリートや木をはじめ、素材感や生地にはとても興味がありました。グラフィックデザインにおいては、特に活版印刷は、海外での影響が強いですね。仕事でアメリカとかヨーロッパに仕入れに行っていたのですが、業種に限らず様々なショップのカードが、生地が厚くてフワフワしていて、印刷が凹んでいたりするんですよ。すごく味がある。当時は「活版印刷」という言葉すら知らなかったのですが、日本ではあまり見られない雰囲気に惹かれていました。そうして意識して見ていると、海外ブランドの商品タグとかも本当に格好いいんですよね。一番影響を受けたデザインは、(ケイトスペードのメンズラインの)「ジャックスペード」という、僕も使っているバッグなのですが、その商品タグをはじめ、グラフィックツール全てが活版印刷でとても好きでした。紙と印刷のバランスが良くて、すごくデザイン性に魅力を感じましたね。パピエラボを一緒にしている武井さん(Sub Letterpress)も、それが好きで偶然にも全く同じものをコレクションしていました。パピエラボのメンバーとは、同じ時期に同じ感覚で、同じ印刷物に興味を持っていたりして、結果的に好きなものが似ていますね。

特に好きなデザインはどこの国のものですか?

アメリカですね。あっちの印刷物はとても遊び心があるんです。今の活版印刷は凹凸感が特徴なのですが、本来はオフセット印刷のように「凹まず滲まず」のものが美しいとされているんです。しかしそのルールを無視して、ボコボコした印刷技術を多用している。パピエラボがスタートした時は、職人さんに「これをやりたい」と海外の印刷物を差し出しても、理解を得にくい部分はありました。

パピエラボで印刷物談義のようなことをする時はありますか?

そんなに多くはないですが、パピエラボの今のショップカードの時は話し合いました。ペラぺラなエアメール用の紙を使用したカードなのですが、「活版印刷=分厚い紙というイメージを払拭したいよね」とみんなで意気投合して決めました。そんな感じで不思議と方向性を大きく転換する時期というのは、みんな同じ感覚と気分で進行できるんですよね。パピエラボのオープンの時も、企画書一枚すら作成していないんです(笑)事業収支もないままに、「活版再生展」から準備期間ほぼ1ヶ月で立ち上げに至りました。メンバーは、印刷談義により価値観を共有するというよりも、たまたま着ている洋服や聴く音楽が似ているという感じです。「あれいいよね」というと、気持ち悪いくらいみんな揃っていて納得している。感覚がとても近いんです。

3人で行動をともにすることは多いのですか?

そんなにないですね。面白い展覧会や情報の共有はしていますが、個別に行動していることが多いです。

僕らは可能な限り、活字にはこだわりたいと思っています。

最近の出来事として、活版印刷で再発見した魅力はありますか?

とても小さな出来事なのですが、活版印刷はデータ入稿が出来ないので、印刷時はできる限り立ち合っているんですね。そうすると、印刷会社によって印刷方法や持っている紙が異なることを知ることが出来ます。職人さんと話していると、様々なヒントが転がっているんです。色はこう調合するとより良くなるとか、機械の調整でこんなに仕上りに違いがあるとか。例えば、パピエラボのショップカードの時がそうだったのですが、印刷の現場でふと目に入った紙に惹かれて、アイデアが浮かびました。エアメールに使われている紙で、普段気にも留めなかったのに、実はとても良い雰囲気があったんです。現場にいると、何かしらいつも出合いがあり、発見や驚きがあります。自分たちで足を運んで印刷を見るのは、そのものを別の角度から見ることができる貴重な時間。活字に関していうと、欧文書体は国内にはないものも多くあります。例えば、有名なHelveticaという書体の活字は、日本にほとんど無いのでコンピュータ上で活字で組んだようにデザインをして、それを凸版で版を起こして印刷するわけなのですが、やっぱり活字と凸版では微妙に違うんですね。活字は、1文字1文字が出たり凹んだりしているし、隣の文字は薄くても隣は濃い字になっている。活字ならではの独特の間合いが好きなので、僕らは可能な限り、活字にはこだわりたいと思っています。

海外から活字を取り寄せたりもするのですか?

欧文書体の国だから当たり前ではありますが、日本では希少な活字がたくさんあるので、取り寄せたりしています。はじめは、活字の高さは日本の機械に合うかなとか、きちんと文字組みできるのかなとか色々考えて、ドキドキしてとても楽しかったですね。

自分のイメージ通りに仕上がるかどうかは印刷物の醍醐味だと思いますが、期待感も大きいですよね。

活版印刷の面白いところは、ふわっとかざらっとしているようなオフセット印刷では、印刷適正の良くないとされる紙が多く使用されるところです。逆に印刷適正の悪い紙の方が、活版印刷のニュアンスを引き出せる。インクの出方がそうで、オフセット印刷のようにDIC(=カラーガイド)で指示すれば、イメージに忠実に表現されるわけではない。活版印刷はインクが沈みやすく、広がってしまうので、DICに頼ることも出来ないんです。自分たちの目と手で何度も色の出方を確かめながら実践するので、本当に手間が多い。手間がかかる分、印刷の仕上りが良いと、もうどうしようもなく嬉しくなりますね。

2社を合わせると、化学反応が起きっちゃったみたいな(笑)

今回発表される新しいステーショナリーブランド「PH(ペーハー)」についてお聞かせ下さい。まず、ネーミングの由来は何ですか?

パピエラボとハイタイド、2社の頭文字をとっているのですが、2社を合わせると、化学反応が起きっちゃったみたいな(笑)そんな意味もあります。

福岡に本社のあるハイタイドさんとの共同開発ということで、地元の人間としては嬉しく思います。プロジェクトの立ち上がった経緯をお伺いできますか?

今回は、ハイタイドというステーショナリーのメーカーが、文具という枠を超え、新しいタイプのステーショナリーブランドを提案したいということで、同じ福岡出身の知人を介してお会いすることになりました。

パピエラボとハイタイドでは、プロダクトの生産数が違い、モノづくりの方向性などから見て、今回のコラボレーションは意外な気もしました。

そうですね。パピエラボは、素材感にこだわり、一つひとつに手間暇をかけ、少数生産をするストイックなもの作りをしています。ただ、活版印刷を世の中に広げていきたいという想いがあり、この技術を未来に残したいと考えた時に、今のような狭いマーケットだけで活動しているのはよくないとも思っていました。例えば、パピエラボでプロダクト開発すると、ブランドイメージが先行しずぎて、卸先を狭めていました。展開が狭いだけに、商品単価も高くなっていて。それだけに今回は、これまでと生産方法を変えることで、業界全体に活版印刷を広める良い機会だと感じました。ハイタイドさんの生産ノウハウや販路はとても魅力的で、そこにパピエラボの活版の知識や世界観を付加することで、新しい価値観が生まれる気がしました。

「PH」と出会い、高揚感を覚えてもらえたら嬉しいです。

「PH」のコンセプトは?

あまりコンセプトを決め込むことは好きではないんですが、活版印刷を知らない人でも、このブランドを手にして「いいな」と思うきっかけになればいいなというくらいですね。僕らがアメリカの印刷物に出合ったときがそうだったように、「PH」と出合い、高揚感を覚えてもらえたら嬉しいです。

江藤さんから見た「PH」の魅力をお聞かせ下さい。

今回ハイタイドさんと組んだからこそ出来たとも言えるのが、機能性の高いアイテムになったということです。例えば、紙の選定をはじめ、角丸にしたことや製本方法など、これまでのノウハウを発揮していただきました。一番の特徴としては、表紙の紙に、簡単には破けない、服飾などにも使われるアメリカ製の芯材紙を使用していることです。また表紙全面に活版印刷を施し、ひとつずつ異なる印刷のムラが個性的です。カラーバリエーションは4色ですが、DICや(パソコンの)画面上だけで決めることなく、現場で入念にチェックし、このためだけにつくったものです。サンプル品をつくるにも、画面上で見ている平面のものと立体のものでは確実に違うため、イメージ通りにあがらず色々と試行錯誤しました。完成するまで職人さんと話し合いながら、開きやすさや紙の断裁都合も工夫しています。今回のノートブックやメモパッドは、綺麗にディスプレイできるようにもなっているんですよ。

INTERVIEW

  • 江藤 公昭[Kimiaki Eto]
    PAPIER LABOディレクター
    1977年福岡生まれ。東京都渋谷区千駄ヶ谷にあるショップ「PAPIER LABO.」設立メンバー。2007年、活版印刷の復興と紙にまつわる実験の場として、高田唯、武井実子とともに、「PAPIER LABO.」をオープン。このショップでは、独自の視点でセレクトされたステーショナリーや、活版印刷をメインとしたオリジナルのペーパープロダクトを販売。また名刺などの活版印刷のオーダーの窓口としても機能している。紙が好きな3人のディレクターが集まり、それぞれの得意分野を活かして、紙と活版印刷というアナログなモノと手法を用いて、実験的な活動、ショップ運営を行っている。 ※活版印刷とは、活字を組み合わせた版で印刷する昔ながらの印刷方法。印刷のデジタル化により今や失われつつある技術だが、職人による手作業ならではのアナログな質感や、徐々に馴染んでいく風合いを増すというその使い心地が見直されてきている。

    PAPIER LABO
    www.papierlabo.com

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