VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。
VOICE TITLE
映画監督
福岡の情報ポータル&ウェブマガジン
評論家・川本三郎の回想録、「マイ・バック・ページ」。山下監督は、本作の映画化で初めて活字の原作を製作し、ジャーナリストの重い挫折の物語を見事、青春映画として昇華させている。時代に人に魅せられるあまり、自分の世界で主役になれなかった二人の男の話。今回は、そんな若き時代をテーマに、山下監督と同じく大阪芸術大学出身のAFRO福岡 クリエイティブディレクターの波田との対談形式により学生時代を追想してもらいながら、作品に込められたメッセージをひもといてみたいと思う。
山下監督(以下、Y):喜志駅周辺にあるアパートですよね。
Y:あの部屋の感じやアジトの雰囲気は、見たことのある光景ですね。
Y:そうですね。映画を正面から構えて見る形にはしたくないと思っていました。つくった僕らですら分からない時代の事を描いているので、無理をしないようにしました。若い人にしっかり観てもらえるよう、人間ドラマとしてつくりました。
Y:ああいうやつ…いましたよね!(笑)
Y:何でしょうね〜大阪芸大。まず大阪とつくのに、ほぼ奈良にある大学でしたからね。本当に、山の中にあるし独自の価値観で、自意識高い若者が集まっていましたよね。
Y:ありがとうございます(笑)。
Y:結局、自分たちが誰の視点かと言うと、恐らく沢田ですよね。やはり、あっちにはいけないというか…。カリスマにはなれないけれど、すごく惹かれるものがある。僕は、脚本を書いている時、「沢田は優しすぎるだろ!」と何度も突っ込みたくなりました。ただ作り終えると、自分は沢田を通してしかこのストーリーを観られないんだと感じました。中平のような先輩が近くにいたし、梅山のような同級生もいました。願望と野心とのバランスが上手くつかない若い頃、気持ちがぐらぐらしている時の人は、みんな沢田に近いのかもしれませんね。
Y:映画では、梅山を少し特殊な人物として扱っていますが、大芸に行くと、まだあんな人たちがいますよね。僕たちがいた頃も、名残があった気がします。卒業したのに、何故かまだ大学の近くにいて、「お前らが入学する3、4年前は、もっと凄かったんたぜ!」みたいな事を偉そうに言ったりする人がたくさんいるんです。そう言う人が挑発するから、何か動かないといけないという焦りに繋がるんですね。
Y:僕も、前園のキャラクターに関しては、関西人独特のオーラを感じています。こういう先輩がいたら、すごく説得力があって自分も取り込まれていただろうと思います。何も迷わない、その言動力が人を惹きつけてやまないんですね。あの独特な雰囲気は、山内圭哉さんだから出来たんだと思います。
Y:若い人に力があって、世の中にしっかりぶつかっていたと思います。当時、若い人たちは無意識だったかもしれないけれど、上の人間に対する反発が凄かったと思います。とくに、大学入学すると、初めて大人や先輩と直接向き合うから馬鹿正直に他人と揉めるんですよね。それで、「熱」が生まれる。時代により温度差はありますが、大学という枠にはそれがつねに存在していると思います。
Y:今回の作品は、そんな多感な時期を過ごした4年間の縮図のようなものだと思います。原作はジャーナリストのドキュメンタリーですが、僕は、20代にある事件を起こした男二人が、それとどう向き合ったかという所を形にしました。僕の行った大学が少し特殊で自意識の強い人が多かったから思うのかもしれませんが、大学生活をおくった人にはこの映画の見え方が少し違うのかもしれません。
Y:そうですね。梅山も沢田も本物になりたかったんです。今の自分は何者でもないから、革命家としての本物に、ジャーナリストとしての本物になりたいと思っていた。二人は、そこだけを見て進んでいくんですが、京大全共闘議長の前園や東大全共闘議長の唐谷という二人のカリスマが持つ、自分たちの積み重ねてきたものがないんです。彼らには、その事実があるから周りが後からついてくるんです。僕も、よく「映画監督にはどうしたらなれますか?」と聞かれますが、それは他人から教わる事でもなく…1から積み上げていき、ようやく10くらいになった時に初めて、誰かが「あの人監督らしいよ」と噂をすると思います。ただそう言う僕も、最初は焦りから映画をつくるようになりました。大学入学して1年間は、何もやれてなくて、2年生に上がる前、何か映画を撮らなければと慌てて8ミリ映画を始めました。
Y:そうですね。大阪芸術大学出身の人はまだ周りにたくさんいます。2つ上の先輩の熊切和嘉監督を筆頭に、すごく勢いのある人たちと映画をつくっていました。そんな当時のメンバーが周りにたくさんいるから、僕は、まだどこかで学生生活を引きずっているのかもしれません。社会人としての溝がどんどん広がっていく感じもありますね(笑)。
Y:視点が変わってしまいますね。もっと沢田よりになるかもしれない。だからこの作品は、梅山という人物に焦点を当て、イメージを膨らましてつくったんです。
『マイ・バック・ページ』は、ジャーナリストの観点から楽しむこともできるが、憧れや夢への挫折を機に、ひとりの大人として成長する男性の人生を垣間みることもできる。今回の対談からは、そんな後者の観点から映画を楽しんでみたいと思った。
マイ・バック・ページ
5/28[土]公開
ユナイテッド・シネマキャナルシティ13 / ユナイテッド・シネマ福岡 他
©2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会
原作:川本三郎
監督:山下敦弘 脚本:向井康介
出演:妻夫木 聡 / 松山ケンイチ 他
音楽:ミト(クラムボン) / きだしゅんすけ
主題歌:「My Back Pages」真心ブラザーズ+奥田民生(キューンレコード)
その他の記事