AFRO FUKUOKA

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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2024.4.11 Thu

VOICE TITLE

vol.102 ZEN

アーティスト/パルクール

INTERVIEW

  • ZEN
    アーティスト/パルクール
    東京都出身のアーティスト。
    同時にフランス発祥のトレーニング文化、パルクールの実践者でもあり、日本初のプロパルクール選手。十代の頃から世界を転戦し、都市環境を利用しながら心身の鍛錬を積み重ねている。2020年には競技パルクールの世界チャンピオンに輝く。
    同年より、「身体と街」「生と死」といった、自身がストリートで経験した特異な瞬間や現代社会への疑問をテーマに、アーティストとしての作品制作を開始。これまで、タイ・バンコクやフランス・パリなど世界各地へ作品制作に赴き、独自のスタンスで芸術の探究を続けている。

TEXT BY

STAFF
AFRO FUKUOKA

福岡の情報ポータル&ウェブマガジン

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2011年に日本で初めて開催されたパルクール世界大会 Red Bull Art of Motion Yokohama 2011 に出場、予選を1位通過・最終5位と健闘し、無名の日本人選手の登場に世界が注目した。19歳でプロ契約を結び、日本で初めてのプロパルクールアスリートになると、21歳でアジア人初の北米・全米チャンピオンに、19年には再びアメリカ大会を優勝。翌年20年の国際体操連盟主催 E-FISE・FIG PARKOUR VIRTUAL COMPETITION FREESTYLE PRO MEN においても優勝を果たした。また、プレイヤーとして世界で活躍する傍、パルクールカルチャー普及に関わるあらゆる活動に従事し、アーティストとして映像や写真、デザインなどを通したクリエイティブ活動を行なっている。今回は阪急での展示にお邪魔し、作品づくりの話しや今回の展示への想い、福岡に対するイメージやこれからの活動についてなど、様々なお話をうかがってきました。

【今回の展示についてZENさんからのコメント】
長年、街と心を通わせる生き方を続けてきた僕には、
街に存在するモノや建造物一つ一つに愛おしさすら感じます。

それは登山家が山の息吹を感じるように。
サーファーが海に生命を感じるように。
そんな情熱やノスタルジーを感じずにはいられないのです。
役目を全うしながらしっとりと老いていく彼らの息遣いに
色気すら感じるのです。

出会ったのか呼ばれたのか。
引き合わせか引き寄せられたのか。
この瞬間この場に居合わせた僕自身の体と視点で、
彼らの魅力を最大限引き出してどんな瞬間を残せるだろう
そうして生まれた作品たちです。

ーZENさんは、「パルクールアスリート」や「世界が尊敬する日本人100人選ばれた」などご自身を表すキーワードがありますが、ZENさんをまだ知らない方に一言で紹介するとしたら、私達はどう紹介したら良いと思いますか?

ZENさん(以下:ZEN) 僕を一言で紹介すると『人間と地球を楽しんでる大人』ですかね。 今もやってることは本当に子供の頃とあんまり変わらないなと思っています。 朝起きて、公園に行って、遊具や周りの環境を飛んでみたり跳ねてみたり、落ちないように歩いてみたり…また家に戻ってきたと思ったら、絵を描き始めるような。まるで子供の頃にしていた『お絵かきする』と『公園遊びする』みたいな生活を毎日させていただいてます。僕は周りの方に恵まれてたりとか家族に恵まれたみたいなところがすごくあって、そういった周りのサポートがあるからこそできる活動ではありますね。僕の周りにはそういうモデルケースというか、お手本のような大人が多かったこともあり、そんな大人に自分もなれていたらいいなと思っています。


ーパルクールとの出会いや接点、また実際にやり始めたきっかけを教えてください。

ZEN 僕の場合はYouTubeでした。僕がまだ15歳の時で、まだYouTubeも今ほどポピュラーなものではなくて、海外の映像がYouTubeに上がっていたのを偶然見たことがパルクールを知るきっかけとなりました。

ー最初に見た映像に登場されてた方、覚えてらっしゃいますか?

ZEN 今でも鮮明に覚えてます。 それはロサンゼルスのパルクールプロチームなのですが、Tempest Freerunning(テンペストフリーランニング)というチームで、街中を飛び回っているようなプロモーション映像兼パルクールのスキルムービーみたいなものでした。

ーその映像を見られて、衝撃というか、一つ心動かされてから、パルクールを実際に自分がやってみるっていうところまでにはいくつかハードルがあると思うんですけど、そこを越えたきっかけは?

ZEN やってみるということは自分の中で大きなハードルだと思ったことはないです。ただ映像を見たときに、人間ってこんな動きができるんだということを証明された気分になったんですよ。 僕はそれまでは高いところから飛び降りて、無傷で済むようなことっていうのは映画のスタントマンやアニメの中のキャラクターのようなフィクションの世界観の話だと思っていたので、人間ができると思っていなかったんです。だからその映像を見たときに、実際にワイヤーがなくとも、現実世界の人間が同じように日常のものを使ってできているっていう事実を突きつけられた、これがすごく衝撃的でした。


ービルの高いところから違うビルに飛び移るような、怖くてちょっと一歩引いてしまうようなところでもパルクールをされていますが、恐怖とはどう対峙していかに克服されたのでしょうか?

ZEN 実際のところ僕は怖がりということもあって、いきなり高いところを飛んでみようなんて発想にはならなくて、彼らがやっていた映像の中でもできそうな動き、例えばちょっと身長ぐらいの高さから飛び降りるぐらいだったら僕もできるんじゃないかとか、それを反対に登るのはどうだろう?とかで少しずつやり始めました。当時はパルクールの施設はもちろん、環境が整っていなくて、それに日本語の情報っていうのも限られたところにしかなくて、自分なりに情報収集して真似して映像の動きをやっていたんですけど、独学でやって半年経っても、やっぱできないってなるんですよ。 つまずいて足はジンジンするし、彼らは軽々とやって痛くなさそうなのに自分の動きは重々しくて、痛いみたいな、、何かが決定的に違う、それが何なのかがわからなくて、それを知るためには彼らに会って聞くしかないと思いました。 それがきっかけでアメリカに行こうと決心しました。


ーそのときのコネクションやネットワークはどうされたんですか?

ZEN そういったものはなかったです、、 ウェブサイトで調べていくと彼らはハリウッドから任されて仕事をしているような、ロサンゼルスNo.1のチームでした。そのチームのウェブサイトにある、仕事の依頼フォームに『一緒に練習したいです』っていうメールを送ったんです。


ーそれにリアクションが来て、アメリカに行かれたということですか?

ZEN いえ、リアクションは来なくて、まあ当たり前なんですけど(笑)ただ動画に出てる公園の名前はわかっていたので、毎日その公園に行けばもしかすると、2週間もいれば1回ぐらい会えるだかもしれないと、夏休みの期間に一人で行こうって決めて、アメリカ行きのチケットを買いました。


ーすごい…! 15歳でその行動力は想像以上ですが、実際に会うことはできたのですか?

ZEN アメリカに着陸し、空港で携帯を開いたら依頼フォームに送った返事が返ってきて「一緒に練習しよう」 と、なのですぐに行きました。


ーそんなミラクルが…! 実際に動画の向こう側にいた彼らと会ってどう思いましたか?

ZEN 彼らや向こうの文化は寛大というか温かい印象でした。 誰かもわからない日本人の高校生が一緒に練習したいっていう連絡を依頼フォームにしてきても、温かく迎えてくれるっていうことに感動しました。ファミリーだからみたいな感じですごく良くしてもらったんですよ、滞在先とか食べるものとか、着るものとかも全てケアしてくれて、今までそういう経験を生まれてこの方したこともなかったので、そういうエピソード含めて、何て素敵な文化なんだろうと思って、彼らのことや文化がより好きになりました。また彼らと一緒にパルクールのトレーニングをすることで、パルクールとはそれまで「チャレンジ精神で怖さを突破してやり切る」ということなのかなって思っていましたが、その認識は間違っているということに気づかされました。 彼らから『パルクールっていうのは周りの環境を使って自分の弱いところを発見していくことを突き詰めていった結果、自分を理解し、結果として、今まで自分ができなかったことができるようになっていくプロセスなんだ。だから無茶をして、自分をごまかして、怪我をする自己破壊行為っていうのはパルクールとしては成立していない、なぜならパルクールはトレーニングだから、トレーニングっていうのは自分を高めていく中でしか存在しない定義だよ』というふうに教えてもらったんですよね。 今まで自分が考えてたチャレンジングなリスクを冒して成功して称えられるみたいなものではなく、あくまで自分を高めていくトレーニングで、ジャンキーな文化とは逆の、とてもヘルシーな文化だったんだと考え方を180度変えられて、 そこから意識も変わってトレーニングの方法も変わって、結果的にどんどん成長していけるようになったんですよね。



ーアメリカに行き、本物の文化に触れて、意識を変えられたのは大きかったですね

ZEN 大きかったです。ただ本物の文化に触れることができたことや意識を変えることができた要因はある意味情報がなかったからなんです。今でこそパルクールの教室が探せば近くにあったり、日本語の情報とかが溢れていたり、恵まれてる時代だと思います。でもやっぱり用意されてないからと言って、経験が閉ざされているかというと、意外と用意されてない人なりにできる経験がそこにあるんだっていうのを知れたのは、僕にとって貴重な経験でしたね。たくさん苦労しましたけど、、



ーZENさんにとって、パルクールの活動からアーティストとしての作家活動への変化についても聞かせていただいてもいいですか?

ZEN 僕の作品自体は、自分の哲学だったりとか、考えていることとか疑問に思っていることなどのメッセージやコンセプトを視覚化するものだと思っています。例えば、『液体』が「考えていることや疑問に思っていること」だとすれば、『液体を入れる器』が表現方法の違いだと思ってるんですよ。 だからそれを体で表現して、舞台上で表現すれば、パフォーマンスと言われるし、それを競技舞台の上でやったときには、選手アスリートだって言われたり。今回は入れる器を写真や映像に変えると今度はそれがアートになるので、私自身、表現を入れる器にこだわってないだけなんだと思います。 なぜなら伝えるための手段だと思っているので、どこか目的の場所に行く手段として自転車や電車や飛行機があるように、一番伝えたいと思うものを表現して、いろんな形で発信したいと思う気持ちが徐々に強くなっていった結果、アーティスト、アスリート、俳優と肩書きが増えちゃってるんですけど、自分自身はずっと表現者であることは変わらないと思っています。



ー作品の中にZENさん本人も登場されて、それが上からか下からなのか、横からなのか、もうわからなくなって、見てる方の視覚が『バグる』みたいなユニークな作品が多いと感じました。そういったことを意識して表現されているんですか?

ZEN 僕の作品にとって、意図してる狙いの一つです。なぜ僕が写真の中に被写体として入って、ああいった表現をするのかというと、まず、人はキャンバスに写ってるものを認識するときに、人間がいればそこから情報を取り始めるという習性があるんですよ。 そうすると体勢や重力の働き方を人間ベースで考えてしまうのでバグるんですよ。動物的な習性を利用して、見間違え、バグるという認識を鑑賞者から引き出したいと思っています。 勘違いをするとか見間違うということって、凝り固まった日常のとらえ方が前提にあるからだと思っていて、僕にとってバグらせるっていうのはどういうことかっていうと、鑑賞者の日常の見方に鮮度を取り戻すことだと思うんです。 あらゆるものに対して、多角的に見ることが何か気づきになったりするのではないかというのが、僕の作品の狙いです。



ー制作の拠点を今後、福岡の方に移されるという話も聞きました。福岡の街の印象を聞かせてください。

ZEN 福岡の街は余裕がある印象です。 余白があるというか、空間的な余裕や時間的余裕、心の余裕とかそういう様々なものも含めて、何か色々な物を自分の中で挟み込める余裕が僕は福岡にいると持てるなと思っています。東京はすごく情報量も多くて、僕の中では人間関係もたくさんあるし刺激的で楽しい場所ではあるんですけど、自分が欲してるものは余白のある時間やスペースのようなものだったりするんですよね。 僕はロサンゼルスに住んでいたのですが、働くときは働くんですけど、のんびりすることも好きで、場所も広々として、みんなゆったりと暮らしてるっていうか、そういう感覚がすごい好きです。 都会に生まれて育ったことが、便利でよかったりとか駅が近くてとか、飲みに行きやすいみたいなメリットは今になればわかるんですけど子供の頃は公園は狭いわ、ちょっとぐれてやろうと思っても、たまる場所すらないみたいな、いろんなものが生まれる余裕みたいなのが自分の中にずっと持てない気がして…福岡で表現活動をもっとしていくのであれば、そういった何でもない時間を過ごすっていう時間を持ちたいな思っています。



ー福岡は自然も近いですよね。

ZEN そうなんです。だから僕は自然の中にアトリエを持ちたいなと思っています。福岡に来て一番好きなことは家から山が見えることです。街中から山が見えてるっていうなんか不思議な感じですよね。新幹線とか降りてぱっと見たら目の前までまだ山があるみたいな。これが僕はすごい新鮮で好きなんですよね。



ーそういった環境の変化を受けて、作品表現としての発信の仕方が新たに出てくる可能性ありますね。

ZEN そうですね。これからも海外にも行く活動などは変わらないんですけど、でもやっぱり地域で生まれるものもたくさんあると思っているので、今度はローカルでできることとか、個展も大きいものばかりじゃなくて、プライベートな空間で、近所の方だけに向けてやるみたいなこともやりたいなと思っています。そういう中で生まれる新しい感覚とかっていうのは、元々探求してみたいなと思っているので。



ー初の福岡での個展開催いかがでしたか。

ZEN 展示を通して次の制作意欲に繋がる経験が沢山できました。 また、展示を観に来てくれた方々から次を楽しみにしてくれているという気持ちが伝わり、更に感謝の言葉をいただいたりもしました。必ずまた福岡に戻ってきたいと思います。




PROFILE

【ZEN】
東京都出身のアーティスト。
同時にフランス発祥のトレーニング文化、パルクールの実践者でもあり、日本初のプロパルクール選手。十代の頃から世界を転戦し、都市環境を利用しながら心身の鍛錬を積み重ねている。2020年には競技パルクールの世界チャンピオンに輝く。
同年より、「身体と街」「生と死」といった、自身がストリートで経験した特異な瞬間や現代社会への疑問をテーマに、アーティストとしての作品制作を開始。これまで、タイ・バンコクやフランス・パリなど世界各地へ作品制作に赴き、独自のスタンスで芸術の探究を続けている。




INFORMATION

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【ZEN EXHIBITION「Living Things -日常に潜むモノ-」】
福岡
◼︎会場 博多阪急 
    第一会場:博多阪急1階メディアステージ(作品・グッズの展示販売)
    第二会場:3階特別室(映像作品の上映)
◼︎会期  2024年2月28日(水)~3月5日(火)
◼︎時間 10:00~20:00 ※最終日の3月5日(火)は18:00終了(両会場)
◼︎料金 各会場入場無料

大阪
◼︎会場 阪急うめだ本店3階プロモーションスペース33・8階特別室
◼︎会期 2024年3月27(水)~4月2日(火)
◼︎時間  10:00~20:00
    ※最終日の4月2日(火)は19:00終了。
◼︎料金 各会場入場無料

INTERVIEW

  • ZEN
    アーティスト/パルクール
    東京都出身のアーティスト。
    同時にフランス発祥のトレーニング文化、パルクールの実践者でもあり、日本初のプロパルクール選手。十代の頃から世界を転戦し、都市環境を利用しながら心身の鍛錬を積み重ねている。2020年には競技パルクールの世界チャンピオンに輝く。
    同年より、「身体と街」「生と死」といった、自身がストリートで経験した特異な瞬間や現代社会への疑問をテーマに、アーティストとしての作品制作を開始。これまで、タイ・バンコクやフランス・パリなど世界各地へ作品制作に赴き、独自のスタンスで芸術の探究を続けている。

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