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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2011.4.1 Fri

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vol.24 大森立嗣

映画監督

INTERVIEW

  • 大森立嗣[Tatsushi Omori]
    映画監督
    1970年生まれ。前衛舞踏家で俳優、大駱駝艦の麿赤兒の長男として東京で育つ。大学入学後、8mm映画を制作。俳優として数々の舞台、映画などで活躍した後スタッフとなる。2005年、花村萬月原作「ゲルマニウムの夜」にて初監督。国内外で高い評価を受けた。2010年、監督二作品目となる「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」においても、第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門、第34回香港国際映画祭に正式出品、同作品で2010年度(第51回)日本映画監督協会新人賞受賞。

TEXT BY

STAFF
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言葉の裏に隠れた「本音」から、愛を伝える。

「まほろ駅前多田便利軒」では、便利屋という仕事をしながら、お節介をやいてしまう二人の男が描かれている。彼らと同じく周りの人々もまた不器用で、その生き方にはそれぞれの優しさが溢れている。他人との関係が希薄となった現代、相手を理解したいとはたらきかける想いはかけがえがないもの。今回はそんな心が表れる本作のテーマについて、監督の考えを伺った。

このまま船に乗って行けたらいいな~って、胸が騒いだね(笑)。

福岡にはよく来られますか?

「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」という映画のキャンペーンの時や、「ゲルマニウムの夜」という映画をつくった時にロケ場所を探すために来ましたね。福岡というか九州全域をレンタカーを借りて探しまわりました。

福岡で好きな所はありますか?

福岡は、筑豊が好きです。あと、今日取材でベイサイドプレイス博多に行ったんですが、すごく好きでした。知らない所に出発できる港が、街のすぐそばにあるなんて新鮮です。しかも、対馬や壱岐のイメージがないから、すごく行きたくなりましたね。このまま船に乗って行けたらいいな~って、胸が騒いだね(笑)。

愛情をうまく表現できなかったり、受け取れなかったりする所を主軸にしたいと思いました。

「まほろ駅前多田便利軒」の原作に出会った経緯を教えて下さい。

「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」のプロデューサーが、「まほろ駅前多田便利軒」の原作権も持っていたんですよ。それで、「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」の仕上げ中に、脚本を書いて欲しいといわれました。未だ読んだことがなかったので、それから読み始めました。それが面白くて、「書きます!」と言っていました。監督をする話は全然なかったんですが、脚本を書き終えたら今度は、「監督もしたくなったでしょ?」といわれて…そりゃあ、なりますよと。

原作を読んだ感想は?共感したことは何ですか?

小説では、わりとコメディというか笑えるポップな部分が特徴的で楽しかったんですが、映画では愛情をうまく表現できなかったり、受け取れなかったりする所を主軸にしたいと思いました。

今回もリトルモアとフィルムメイカーズとの製作ですね。パートナーシップを組む理由はありますか?

リトルモアの社長である孫さん(孫 家邦氏)とは、昔からの知り合いなんですよ。リトルモアという会社が出来る前からで、彼は、今サブカルチャーの先端をいく会社をやっていますが、俺にはそれはあんまり関係なくて。孫さんは、プロデューサーとしてすごくコミュニケーションが取りやすいですし、何より友達のような付き合いなんです。結果としては、映画という大きなプロジェクトになっているんだけど、いつも最初は二人で話していることから始まっているし、仕事だからやっているという感じが全然ないんです。だから、自然な流れですね。

「映画の未来を。」とプロダクションノーツにありましたが、映画に託す想いはありますか?

それは、いっぱいあるね。映画がひとつあるとしたら、映画の観方は様々だと思うんです。例えば、何かを観た時、内容が分かりにくいからダメな作品だとか、分からないから私には関係ないではなく、実はそういう分からないものを知ることが大事だと思うんです。今は、そんな考えることを怠っている人が多いと思います。俺も最初は、ヨーロッパの監督作品を映画館に観に行った時、「???」な感じでした。でも、一緒に行った先輩はすごく感動している。その時、この人はすごく心を動かし感動できるものなのに、俺には何で感じられないんだろうと…。そんな心の貧しさに気づき、悲しいというか悔しいというか。それから、何度も同じ映画を観たり、映画評論を読んだりして、何かを感じられるようになりたいと思いましたね。そうすると、いつの間にか自分なりに観方が分かってくるんです。ハリウッド映画やテレビばかりを見慣れてしまうと、なかなか難しいことだと思います。

映画から学べることはきっとたくさんあるんでしょうね。

お客さんがいっぱい入れば良い作品となると、どれも均一化してしまいますよね。本当に良いものに、人が集まればいいのに。そもそも発信するってことは、このリードカフェのように、オーナーの意思がもとになり本がたくさん置いてあって…。それに、人が集まってくるものなんだよね。

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8月のシーンは、フィルムの種類を変えたり、コントラストを上げたりして、他と微妙に色感を変えました。

まほろ市のモデルとなった町田市の魅力は?

町田駅の周辺は、少し歩いただけでも本当に色んな人がいるんですよ!見るからに悪そうな兄ちゃんや子供連れのお母さん、おじいさんおばあさん、学生たち、そして若者がいっぱいいて。そのごちゃごちゃした感じが、この映画にはすごくいいんだろうなと思いました。

町田市が全面的に協力したと伺いました。そこでのエピソードはありますか?

そうですね。街とそこに住む人たちとすごく繫がりを作れたからできました。真夏に、冬のシーンを撮っていたので、エキストラの方たちには長袖やジャンパーなどを自分で用意してもらいました。とにかく、フレームに入ってる所には、そんな人だけ集めてやったので大変でしたね。半袖の人が通ったら、「すいません~」とかいって外れてもらったりもして。

一年を通して見せる中で、最もこだわった所はありますか?

8月のシーンは、フィルムの種類を変えたり、コントラストを上げたりして、他と微妙に色感を変えました。8月の所だけ、変なんですよ。とくに、凪子さん(役・本上まなみ)が出てくる所は、妙にすっとんだ感じがして。多田(役・瑛太)もバス停でぶっ倒れるんだけど、全体的に可笑しくてアートなんだよね。あのシーンが、すごく好きなんですよ。

ひとつひとつの情景が印象深い作品ですね。

1カット1カットが長いんですよね。例えば、ハリウッド映画だと情報として伝達できた所で絶対編集するんですが、ここではあえて引き伸ばしています。そこで、お客さんは考えるんです。「なぜ、このカットは長いんだろう?もう分かっているのに、どうして?」と。実は、その時間が俺はすごく好きで、説明的なカットを極力撮りたくないんです。飽きる人もいると思うんですが、そこから考えてくれる人がいると嬉しいです。

自分のイメージを役柄に持ち込まない人がいいですね。

主演のお二人の魅力について。

二人に共通することなんだけど、あるいはいい俳優には共通することかもしれないんですが、心の裏側にこっそり孤独感を持っている所です。誰でも、他人には言いたくない部分を持っているものだとは思うんですが、そういうのを積極的に出すのではなく、ふとした瞬間に感じさせる。瑛太と龍平は、二人とも結婚して子供もいるし、売れていて仕事もうまくいっているから幸せそうな気がするんだけど、一緒にいると、どこかに孤独感を抱えているのが分かるんです。多田と行天に通じるところがありますね。

監督の作品に出る俳優は、そういうものを持っている人が多いですか?

そうだね。わりと品がある人を選んでいる気がします。自分のイメージを役柄に持ち込まない人がいいですね。それは意図的であってもそうでなくても必要ではなく、その人はそのままでいて欲しいと思います。例えば、今回の多田という役があった時に、テレビのような格好いい瑛太のイメージでやられては困る。瑛太は、そんなことなかったですけどね。そもそも映画は、法律も道徳も関係ない所がありますよね?だからこそ、色んなことから自由になれる、社会的な風潮なども全部投げ出しカメラの前に立てる人が、すごく好きなんだよね。

面倒臭いくらいにグジグジしているんだけど、それでも明日があると生きている。

個性的なキャラクターがたくさん登場しますが、キーマンはいますか?

個人的には、「三峯凪子」がすごく面白かった。本上まなみさんは、俺となかなか接点がない人なんだけど、清潔さと、一本ねじが外れてしまった役がすごく好きでしたね。俺の映画は、わりと今回の便利屋さんやルルやハイシーの娼婦のように、社会的にアウトサイドな人が多く出る傾向にあるんだけど、その中で凪子さんはお医者さん。あの人が、この映画の幅を作っている気がします。

監督が好きなセリフはありますか?

凪子さんが多田に娘と行天の関係の話をしている所で、駆けつけてきた娘が”ぬぐるみ”を持って「くまくま~」といってくるんです。それに凪子さんが、「くまくまという名のうさぎです」と答えるシーンがあるんですよ。真剣な話をしているのに”ぬいぐるみ”の説明をする凪子さんをはじめ、みんなずれている感じが好きです。(笑)

最後に。どんな方に観て欲しいですか?

女の人に観て欲しいです。三十路の男たちが色々背負いながらも、ウジウジ生きてんだよ!みたいな所をね。「毎日かあさん」の西原さんみたいに、「バーン」と勢いよく行けない所があるんですよ。面倒臭いくらいにグジグジしているんだけど、それでも明日があると生きている。そんな男の情けない感じを観て欲しいです。これって、結構福岡っぽくていいですよね(笑)?男は、照れて言葉にできないこともたくさんあるんですよ。

■舞台挨拶に瑛太がサプライズ登場!舞台挨拶レポートはこちら

INFORMATION

まほろ駅前多田便利軒
4/23[土]公開
ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13 他 全国公開
© 2011 『まほろ駅前多田便利軒』 製作委員会

原作:三浦しをん
監督・脚本:大森立嗣[Omori Tatsushi]
出演:瑛太 / 松田龍平 / 片岡礼子 / 鈴木杏 他

INTERVIEW

  • 大森立嗣[Tatsushi Omori]
    映画監督
    1970年生まれ。前衛舞踏家で俳優、大駱駝艦の麿赤兒の長男として東京で育つ。大学入学後、8mm映画を制作。俳優として数々の舞台、映画などで活躍した後スタッフとなる。2005年、花村萬月原作「ゲルマニウムの夜」にて初監督。国内外で高い評価を受けた。2010年、監督二作品目となる「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」においても、第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門、第34回香港国際映画祭に正式出品、同作品で2010年度(第51回)日本映画監督協会新人賞受賞。

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