VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。
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映画監督
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2009年映画『空気人形』の公開前に、VoIcE vol.12にてご登場いただいた是枝裕和監督へ二度目となるインタビュー。今年で監督人生20周年を迎えるということで、是枝裕和氏の20年を振り返る特集記事が雑誌「SWITCH」で展開されるなど、大きな節目である今年の活動に各種メディアが注目するなか、待望の新作映画『海街diary』にかける思いや、監督のお仕事の流れについて伺った。
単行本一巻目の前半で、三姉妹が父親のお葬式のために山形へ行き、初めて異母妹であるすずに出会うんですね。みんなで高台へ登り、街を見下ろすというシーンがあるんですが、そこですずが泣き叫ぶんですよ。三人でひとつだった絵が、四人の影がそこでスッとひとつに見えるというこのシーンで完全に心を掴まれました。蝉しぐれが響く印象的な夏の日のワンシーンに、惹かれたことがスタートです。
こんな風に映画にしたいんですと、まずお手紙を書きました。その後お会いした時「もう娘を嫁に出す心境なので、自由に、是枝版“海街”にしていただいて構いません」と言われました。原作にないセリフやシーンがあっても良いんだと。ただ、鎌倉の四季の移ろいは大事にして欲しいなと、非常に控えめにおっしゃっていただきました。
そうでしたね。『空気人形』の時は、主演であるペ・ドゥナに出演依頼のため手紙を出しました。やっぱり、手紙が一番じゃないですかね。ちゃんと伝えたいと思う時には。
いきなり電話というわけにもいかないし、メールというのもね。自分が相手の立場だったとしても、貰った時、手書きの手紙の方が伝わるものがある気がします。
季節感を撮るということだけで言うと今回だけではないのですが、春先に撮ったものを編集したり、色々と音楽当てたりしながら次のシーズンの脚本を書くという贅沢な流れでしたね。作り手にとっては、非常に恵まれた環境だったので、幸せな一年でした。
僕は、この四姉妹をいつまでも見ていたいと素直に思いました。そういう意味では良い映画だなと(笑)
三姉妹のあり方は、三姉妹で暮らしている方々を複数取材しました。鎌倉にこだわらず、いろんな場所で三姉妹を観察しましたね。どういうきっかけで喧嘩するのかとか、お風呂の順番をどうやって決めているのかとか。長女は、どういう風にみんなより早く母親のようになるんだろうとか、気になることを知っておきたいと思いました。
原作にあるんですが、幸とすずはよく似ていて。冒頭すぐ、父親の葬式へ向かう次女と三女が、子どもの頃の幸の話をしていて「お母さんが幸のことをこんな風に慰めてたよね」と話すんですが、山形のお葬式のシーンでは、幸がすずのことをある日の母のように慰めてる。そういう性格のリンクのさせ方は、あらゆる場面で仕掛けていきました。本編では、梅酒を漬けるシーンも大事なところなんですね。おばあちゃんがやってきたことをまず幸がやり、幸がやっていたことを次はすずがやっていくことになるということで、何かが確かに受け継がれていくことを表現しました。日常にある、ふと繰り返されていく物事を印象的に見せています。
女性らしさ…僕はね、あまり男性らしさ女性らしさというのを信用してないんですよ。何かあんまり好きじゃないというか。映画制作でも細やかな演出をする人は“女性らしい”とか言われるけども、実際女性らしいから細かいわけではなくて。むしろね、男の方が細かいところもあると思う。役者さんの場合、意外と女優さんはみんな男っぽいところを持ってる。だから僕は、意図的に女性らしさを撮ることはやらないですね。
取材をした時、三姉妹は、お風呂に入る順番が決まっていることを知りました。お風呂は短い人から順に入るというルール。お風呂が長い人は、先に入って急かされる心配もないし、最後に入った方が誰にも迷惑をかけないということ。これを女性的だというのであれば、そういうのは多分随所にあります。そうそう、撮影が始まる前、四人にみんなで暮らすあの家に集まってもらいました。早く家に馴染んでもらいたくてリハーサルの一環だったんですが、庭の草むしりをしたり、台所で料理を作ったり、掃除までしてもらいました。そこで印象的だったのは、障子張りもやってもらったんですが、障子に空いた穴を塞ぐのに、柄生地をハート型に切り取って使っていたこと。僕の子どもの頃の記憶だとね、白い障子の破れには白の紙でなるべく目立たないよう穴を塞ぐのが普通だったから。でも全くそうじゃなくて、縞々の紙をハートに切って貼ってしまうのを見た時に、「今の子たちがやるとこうなるのかもしれない」と思いました。単純に面白いなと思って、本編でもそのまま使いました。これも女性的といえば、女性的なことなのかもしれない。
あの子たちを観察することでシーンにしていったものがいくつかあります。次女である佳乃が、四女のすずにペディキュア塗るシーンもそうです。あのシーンは、現場で佳乃役の長澤まさみさんがスタッフの女の子の爪に、マニキュアを塗ってあげているのを見て「佳乃はすずに塗りそうだな」と思って脚本に追加しました。こういったシーンは、男の僕だけだと考えられないから、「観察するって大事だな」と思いました。
障子張りした後、江ノ島をバックにして四人が海辺を歩くところ。ちょっと逆光気味の光のなかで、四人が歩いていくシーン…あそこが好きです。
前回、非常にうまくいったので、また今回違うタイプのものをご一緒したいと思いました。
前作よりもやわらかい雰囲気。前作は、光と影のコントラストを結構強めにしているんですが、今回はやわらかい光のなかで彼女たちを捉えていくという基本コンセプトでした。一年間通して撮るという条件を最大限に活かして、光の変化をどうゆるやかに伝えるかというところに気をつけました。
旺志郎?旺志郎は、良いよな〜。そうそう、良い男になってきたね。あの時と中身は全然変わんないけどね(笑)今回の作品では、まだすずの可愛さに気づききっていない子供っぽい感じが良いなと。きっと後で後悔するんだろうね、中学生だからまだそうだよな。
そうですね、事前には何も伝えずその場その場でセリフを与えて話していきました。そもそも、子役には台本を渡さないようにしていて、渡さずとも演技が出来る子を選ぶようにしています。子どもに台本を渡してしまうと、家で母親としっかり練習してきてしまいますから。真面目な子ほどそうなんですね。そういうお芝居は、本番で何にも変わらない。やっぱり文字にして渡してしまうと、朗読の練習に夢中になってしまうので、耳から音で入ってきたものに対する感覚を大事にした方が良い。広瀬さんは、クランクイン前の稽古で台本が有ってもなくても出来る方だと分かっていたので、本人にどちらでやるかを委ねました。そしたら「台本なしでやりたい」と。
三姉妹との絡みのシーンも、すずだけは、まっさらの状態で現場に来て、その場で時間をかけてセリフを覚え、みんなとの掛け合いを一から作っていく。現場で出来上がる瞬間に立ち会うという感覚が、役者にもスタッフにも緊張感を与える。用意してきたものがそこで再現されるというよりは、そこで生まれてくるものを、僕は大事にしていきたいなと思っています。
■ 監督・脚本:是枝裕和
■ 原作:吉田秋生「海街diary」(小学館「月刊フラワーズ」連載)
■ 音楽:菅野よう子
■ 撮影:瀧本幹也
■ 出演:綾瀬はるか / 長澤まさみ / 夏帆 / 広瀬すず / 大竹しのぶ / 堤真一 / 加瀬亮 / 風吹ジュン / リリー・フランキー / 前田旺志郎 / 鈴木亮平 / 池田貴史 / 坂口健太郎 ほか
■ 公式サイト:http://umimachi.gaga.ne.jp/
TOHOシネマズ天神 / ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13 / ユナイテッド・シネマ福岡 / T・ジョイ博多 ほか全国ロードショー
© 2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
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