VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。
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第135回直木賞作品「まほろ駅前多田便利軒」などの人気作家・三浦しをんの小説「舟を編む」が、4/13から全国で公開された。電子辞書が普及しすぐに答えを出せる時代にありながら、紙辞書にこだわり続ける辞書編集部を描く本作。この物語は、少し遠回りしても自分の納得いく人生を送ることが大切なのだと教えてくれる。今回は、作者特有の愛すべきキャラクターについて、その魅力を実感した二人にお話を伺った。
松田龍平(以下、M):辞書を作るという仕事がなかなか想像できなかったので、すごく興味を持ちました。それに馬締という男は、言葉を操る仕事に携わっているにも関わらず、人と上手く喋れない人。そんな人が、辞書作りをしているというのが面白かったですね。 オダギリジョー(以下、O):僕は原作を読んでいなかったので、台本を通して辞書作りの面白さを感じました。
M:馬締の真面目なところですね。人とのコミュニケーションが苦手な人が、ちゃんと人と向きあっていこうとするところや辞書作りを通し成長していく姿が面白かったです。あと、好きな人である香具矢に対しての不器用な馬締の感じもとてもいいと思いましたね。 O:西岡は、一見お調子者的なテキトーな人間に見えますが、結局のところ、辞書作りを本気で助けようとしていて、馬締のサポート役に徹しているんですね。しっかり責任を取ろうとしているところが好きなところでした。
M:石井監督とは、この作品で初めてお会いしました。撮影前から最後まで、まったく手をぬかない方という印象がありますね。 O:石井監督は物語に対しても役柄に対しても、共有したい方だと思います。監督の持っているイメージを、みんなにしっかり伝えながら進めたいんだと感じました。とくにキャラクター性については、監督とキャストがどうイメージを擦り合わせていくかが重要でした。
O:話合いで解決したり、まず演技を見てもらい監督がどう感じるのかを探っていったりでしたね。
M:撮影シーン毎にイメージを照らし合わせていきましたね。例えば、馬締が下宿先の大家であるタケおばあさんに、「人と向き合うにはちゃんと自分から言葉を発しなきゃ」と言われるシーンがあるんですが、その次のシーンで、馬締は、西岡に駆け寄って腕をガッと掴むんですよ。僕が本を読んだ時点では、その行動について疑問を持っていました。馬締は、そんなにすぐには人と距離を縮められないんじゃないかなと。ただ石井監督は、そこでグッと距離を縮めたいんだと言われていました。演じてみて分かったのですが、距離感が分からない人だからこそ、そんな行動をとってしまう。それが不器用な馬締の特長なんだと思いました。
M:辞書を作るということで、全編に言葉がうまく散りばめられているなあと。「右」の語釈からはじまり、「ダサい」の使用例を話すシーンとか印象的ですね。言葉だけだと記号なんですが、やっぱり言葉というのは人との繋がりがあってはじめて生かされるものだと思います。自分のためだけのものではなくて、誰かがいるからこそ、特別な意味を持つというか。それがすごくよく分かる表現になっていると思います。そして馬締をはじめ、馬締が出会う人すべてがありえないようなキャラクターではなくて、どこか共感できるところがある。みんな親近感がある人たちだと思います。あとひとつ、シーンでいうと、馬締が香具矢に告白するシーンが好きですね。そのときの馬締は、西岡が辞書編集部からいなくなる問題や好きな人にラブレターを渡した後で答えを待っている不安な気持ちなど、さまざまなモヤモヤを抱えているときで。告白するシーンは、そのモヤモヤ感をどうふっ飛ばしてみせるかが重要でした。それが、見ていて感じられるものになっていると思います。 O:今パッと頭に浮かんだのは、居酒屋でのワンシーン。辞書を監修する松本先生が酔っ払っていて、制作中の「大渡海」の姿を熱く語っているところ。そこにいる辞書編集部のメンバーそれぞれが違った心境でそこにいるんです。西岡は、松本先生の長話にすっかりうんざりしている様子なのに、馬締はその話にすごく響きまくっている。そういう飲み会って、どの職業であったとしてもよくあることですよね。辞書作りというのがとんでもなく小難しい社会ではなく、どこにでもある生活のひとつだと思える瞬間で印象に残っています。
M:馬締のように、自分の一生を辞書作りに捧げるというのは、なかなか想像できないことですね。だから馬締が羨ましいと思いました。ただ、僕も15歳くらいから俳優をやっているので、14年間は仕事している。馬締のようにはっきりと意思表示してきたわけではないですが、もしかすると馬締と似ているのかもしれません。長い間やっているからこそ分かることは、きっとあると思う。何か、そこまでしてからじゃないと気づかない面白さというか。始めは、いっぱいいっぱいだったけれど、いつか見えてくるものがあるというか。どんな仕事でも、仕事が楽しいと思えるようになるのは、短期間では難しいと思いますね。 O:映画は、辞書を作るという目的に対し、編集部が一斉に向かっている。僕らも同じで、映画を作るというひとつの目的に向かっていて、そこには情熱なしでは参加出来ないじゃないですか。映画作りの職人が集まっているわけですし、遊びでやっているわけでもないので、情熱あってなんぼってことなんでしょうね。
M:西岡は感覚で生きているというか、馬締と対照的なキャラクターなんですが、その西岡のイメージが変わる瞬間があるんです。例えば、辞書作りが中止になるかもしれないところで、突然中止にさせないよう周りに働きかけていく。出版社の局長に対して、辞書のことをすごく熱く話すシーンが好きでした。西岡の始めの印象とのギャップがいいんです。上辺ではなく心から情熱を持って、辞書の魅力を伝えようとしているのが分かるいいシーンだと思います。 O:馬締というキャラクターがすごく好きなので、どこかひとつと言われると困るんですが…不器用な馬締君が香具矢に一目惚れをして使いものにならない状態になっている姿もすごく好きですし、告白のシーンも好きですし、そんな馬締が13年後リーダーとなって辞書を作りあげていく、ああ大人になったんだなーと分かるところも好きです。全体的に好きですね。
O:そうですね。撮影中、馬締とリアルに接していく中で好きになったと言うよりも一観客として、いつのまにか馬締君のことをすごく好きになっていました(笑)。実際現場では、馬締の13年後のシーンとか、僕はほとんど見る機会がなかったので。出来上がった作品を観て、あの馬締がこうなったんだな〜と単純に感慨深く感じました。
M:二人のシーンには、言葉があまりいらない感じが出ていましたね。ラブシーンでも、急にふたりの距離が縮まるというところはなかった。人生を長いスパンで見たときに、衝撃的なシーンのように山場を集めて映画にするというのではなく、何気ない日常を集め映画にしている。二人は時間が経ってもずっと一緒にいるということを、しっかり取り上げているのがいいと思います。人生は結婚した後も続いていくし、「大渡海」を発表した後も辞書の改定作業が続いていく。人生は、死ぬまでいろいろあるというのを描いている映画だと思いますね。それが、映画の中の二人の関係性から見て分かると思います。
映画「舟を編む」
新しい辞書「大渡海」の見出し語は24万語。完成するのに、15年。本作は、ある出版社の編集部を舞台に、辞書作りに情熱を注ぐちょっと変わった人たちの懸命な日々と壮大な夢を描いている。
©2013「舟を編む」製作委員会
■原作:三浦しをん「舟を編む」(光文社刊)
■監督:石井裕也
■出演:松田龍平 / 宮﨑あおい / オダギリジョー 他
中洲大洋 / UCキャナルシティ13 / T・ジョイ博多 / TOHOシネマズ天神 他全国ロードショー
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