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VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。

  • PEOPLE
  • 2012.7.1 Sun

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vol.33 蜷川実花・新井浩文

フォトグラファー・映画監督

INTERVIEW

  • 蜷川実花[Ninagawa Mika]
    フォトグラファー・映画監督
    木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。映像作品も多く手がける。2007年、映画『さくらん』監督。08年、個展「蜷川実花展」が全国の美術館を巡回し、合計約18万人を動員。10年、Rizzoli N.Y.から写真集「MIKA NINAGAWA」を出版、世界各国で話題となる。映画『ヘルタースケルター』の公開とともに、写真集「HELTER-SKELTER MIKA NINAGAWA」も発売予定。
  • 新井浩文[Arai Hirofumi]
    2003年、豊田利晃監督『青い春』で第17回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。05年には、大森立嗣監督『ゲルマニウムの夜』で初単独主演。実力派俳優として映画を中心に活躍。今年はこれから『闇金ウシジマくん』、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』、『アウトレイジ ビヨンド』、『赤い季節』、『その夜の侍』が公開。

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自分の人生を切り拓くために、やるべき事に目を向ける。

全身整形のスター、りりこが巻き起こす事件!原作は、第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く、岡崎京子の熱狂コミック。美容整形や消費社会、まさに都会の街が生み出す光と影に翻弄されていくヒロインを描いている。そんな衝撃作の監督は、女性の美の瞬間を切りとることで、世界的に評価の高い蜷川実花。本作では、「キレイになりたい」、「幸せになりたい」という、女性なら誰しもが手に入れたいと願う欲望を、個性的なキャラを通し、何ひとつ包み隠すことなく露に映し出している。没個性的な考え方が多い世の中で、物の見方を大きく変えてくれる秀逸な作品だと感じたが、監督や俳優が作品に込めた想いを伺ってきた。

女の子の描写が、本当にリアルな所が岡崎作品の魅力だと思います。(蜷川監督)

今回は、熱狂的なファンの多い岡崎京子作品、初の映画化ですが、蜷川監督の原作を読んだ感想をお聞かせ下さい。

蜷川実花(以下、N):岡崎さんの作品は凄く好きで、大体全部読んでいます。「ヘルタースケルター」は、読んだ後に何ともいえない重さが残りました。気持ちが、ザワザワザワザワするというか…。上手く言葉に出来ない、その感情はいつまでたっても言語化出来ないと思いますが、それをずっと忘れられない感じなんです。凄く衝撃的で、大好きな作品です。それと、岡崎さんの作品の主人公の中でも、「ヘルタースケルター」の主人公・りりこは、特に温度が高いと思います。あんな風にがむしゃらに、何が何でもやり遂げるキャラクターは他の岡崎作品にはいない気がします。他の作品の主人公は、みんな少し低温で、本作でいうと、吉川こずえのように俯瞰な目線を持った人が多い。りりこのように、後先考えず欲望に突き進み、結果的に不器用な人だと感じさせるキャラクターが、私は凄く好きです。

特に印象に残っている事はありますか?

N:やっぱり全体の雰囲気。例えば、しばらく読んでなかったとしても、思い出してみると、読んだ時の空気感やイメージが浮かんでくる。女の子の描写が、本当にリアルな所が岡崎作品の魅力だと思います。私が若い頃、「へルタースケルター」を読んでた時は、東京の煌びやかな光景がありのままに描かれていて、何かオシャレでかっこいい空間だなと憧れていました。

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「キレイになれば、強くなれる」という言葉には、凄く共感出来ました。(蜷川監督)

女性として、共感できる所はありましたか?

「キレイになれば、強くなれる」という言葉には、凄く共感出来ました。

本編を拝見しましたが、その言葉が印象的でした。

N:それが、ストーリーのフックだったので。いくら仕事が出来ても…。モテる事と仕事が出来る事は、どんどん反比例していくのだと思います(笑)。見事に、二つが反比例していく、面倒くさい生き物ですよ、女は。

男性は仕事が出来る方がモテる気もしますが。

新井浩文(以下、A):いや男の子もやっぱり外見は…。ただ、めっちゃくちゃ仕事が出来るウチの友達で、少しふくよかな人もモテてますね。

N:仕事は、出来ないより出来た方がいいよね。ただ、私がモテないのは仕事のせいだと思ってたんだけど、私自身の問題かな?

A:いやいや、実花さんモテるでしょ。

N:みんな、そんな風に言ってくれるけど…モテない(笑)。

殺し屋ばっかりやってる人によく頼んだなと思いました(笑)。(蜷川監督)

今回、新井さんのゲイ役は新鮮でしたね。

N:新井君とは、そもそも飲みの席で知り合ったんです。ちょうどその頃、錦二役で誰かいないかと探していました。その後すぐ、また別の飲みの席で一緒になった時に、新井君に声をかけました。

A:「新井君にぴったりの役がある」と言われて。喜んでお話を受けて、脚本を読んだらゲイ役でした(笑)。

その時の心境は?

A:どこがぴったりなんだろうと。最初は正直、実花さんはウチのことゲイだと思ってるのかなと…。女の子が大好きなんですけどね。

N:共通の知り合いもいるし、女の子が大好きな事は知ってたよ!ゲイの役は、TVで見ると凄く大げさな人が多くて、コメディ化してるのが気になっていました。私のようにファッション業界にいると、ゲイの方には日常的に出会います。制作チームの中に必ずといっていいくらい、1人はいる。1チームに3~4人いることも普通なので、先に性格を知った後でゲイだったと分かる事が多い。私の周りは、凄く心優しくて、タレントさんをフォローできる包容力があったり、柔らかい空気を持っている人ばかり。そういう意味で、飲みの場での新井君はそれに似た独特の雰囲気を持っていて素敵でした。あと、錦二は難しい役なので、絶対に演技が上手な人がいいと思ってました。ただ、後になって、殺し屋ばっかりやってる人によく頼んだなと思いました(笑)。

蜷川監督が、新井さんに役作りでお願いした事はありますか?

N:今回、男性キャラには、男性らしい包容力と「こんな男性がいて欲しい!」という女性の願望を一身に背負ってもらいましたが、新井君には女性と男性の中間というポジションにリアリティを求めました。

みんなが共通して言ってた事は、「気持ちは女優よ」でしたね。(新井浩文)

新井さんは役作りのために、何か監督に相談しましたか?

A:実花さんの知り合いで、ゲイの方を何人か紹介してもらい、その方々に心情を伺いました。そこで、みんなが共通して言ってた事は、「気持ちは女優よ」でしたね。

N:そうそう。私を見て!だよね。

新井さんが苦労したシーンはありますか?

A:実花さんも言ってたコントやコメディのタッチにならないように、全体的な所作とか、その人の空気感を大事にしました。映画の邪魔にならないように、演技のさじ加減に一番気を使いましたね。話が少しずれますが、ウチが実花さんにネイルをやってもらった後現場に行くと、その事に気がつくのは女の子なんです。男は誰も気がつかない。女の子は、すぐに「新井さん指キレイ!」と言ってくれたので、思わず、「あ、そう!これやってきたの!」ってなりましたね(笑)。その時、改めて女の子の気持ちや周りを意識する癖がつきましたね。小さい事にも気がついたり、サラッと人を褒めたり出来るようになったりもして…監督に感謝しないとですね。

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特に、大森南朋さんの役に思い入れが強い気がしました。(新井浩文)

男性キャラに込めた想いをお聞かせ下さい。

A:特に、大森南朋さんの演じる麻田の役に思い入れ度が高い気がしました。

N:そうね。大分、女の夢を詰め込んだ感じです。

A:そういえば、南朋さんとガンダムのシャアの話をしてましたよね?実花さんが、シャアを好きで、シャアのような人と結婚したかったから、麻田がシャア風になりましたと。それに、麻田のセリフや仕草も独特でしたよね。普段絶対使わない言い回しだったり、格好良く決めてコーヒーを飲んだり、南朋さん自身はそういうタイプではないと知ってたので、そんな所にも実花さんのこだわりを感じました。麻田のメガネがキラーンと光って見える所とかも良かったですね。

N:あー。バレました(笑)?

想像以上に不器用で真っ直ぐで、清潔な人だと感じました。(蜷川監督)

今回のヒロイン、沢尻エリカさんの魅力は?

N:これまで何度も撮影させていただいた事があるので、パーソナリティーは知ってるつもりでしたが、現場に入り1本撮り終えてみると、想像以上に不器用で真っ直ぐで、清潔な人だと感じました。だからこそ、色々な事にぶつかる時もあるんだと思わせる人でした。演技が上手とか下手とか以前に、あれだけ全身全霊をかけ役にぶつかれるのは、本当に大きな才能だと思います。それに、やっぱりかわいい。ひとりで、あの大画面を支配できるのは凄い事ですよね。華があるというのがぴったりだと思いますが、他の一目置かれる女優さんでもなかなか持ってないような、彼女だけの存在感があったと思います。スクリーンを通して見る彼女を、好きでも嫌いでも構わず、思わず見てしまう…そんな何かを持ってる。そこが、りりこにはぴったりでした。

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不公平な人生を認める事が、実は重要なのではないかと。(蜷川監督)

蜷川さんの美しさへのこだわりは?

N:女性は、物心ついた頃から、美しいか美しくないかが、人生に大きく関わるものだと思うんです。それは、みんなが体感してきた事だと思うんですが、私達の人生は、圧倒的に不公平な条件から始まっているんです。そんな事を言う人は少ないと思いますが、不公平な人生を認める事が、実は重要なのではないかと。それを踏まえて、自分がどのように進んでいくかを、映画ではテーマにしたいと思いました。本作では、みんな整形しましょうよと言ってる訳ではなく、世の中の不条理を受け入れ生きていく事が大切だと想っています。

最後に、読者へメッセージを下さい。

N:完成したものは、もう観てもらうだけですね。ここを観てとかはないです。ただ、私にとっては運命的な作品だと思うほど全てをかけて作ったし、主演のエリカも凄く魂をかけ役と向かいあったものですし、キャストのみんなもスタッフもみんなの熱量がぎゅっと凝縮された作品だと思うので、ぜひ観てもらいたいです。大画面で見ると全然違うし、映画館で楽しんでもらえたら嬉しいです。

A:本当に、実花さんと沢尻さんの念がこもった温度ある作品ですので、ぜひそれを体感しに劇場へ遊びに来て欲しいです。

INFORMATION

7/14公開
©2012 映画『ヘルタースケルター』製作委員会
■映画『へルタースケルター』

INTERVIEW

  • 蜷川実花[Ninagawa Mika]
    フォトグラファー・映画監督
    木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。映像作品も多く手がける。2007年、映画『さくらん』監督。08年、個展「蜷川実花展」が全国の美術館を巡回し、合計約18万人を動員。10年、Rizzoli N.Y.から写真集「MIKA NINAGAWA」を出版、世界各国で話題となる。映画『ヘルタースケルター』の公開とともに、写真集「HELTER-SKELTER MIKA NINAGAWA」も発売予定。
  • 新井浩文[Arai Hirofumi]
    2003年、豊田利晃監督『青い春』で第17回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。05年には、大森立嗣監督『ゲルマニウムの夜』で初単独主演。実力派俳優として映画を中心に活躍。今年はこれから『闇金ウシジマくん』、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』、『アウトレイジ ビヨンド』、『赤い季節』、『その夜の侍』が公開。

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