福岡の今をあれこれ更新
「本当はみそ汁とごはんが食べたいのに、検索しているのは皿の上にちょこんと乗っている洋食だよ」と、先日恋占いをしていただいた司馬忠さんに言われました。
すみません、唐突でしたね。ここで言う「みそ汁とごはん」=「一緒にいるべき心安らぐ男性」、「ちょこんと乗った洋食」=「ちょっと刺激のある追い求めたい男性」を例えた比喩です。ざっくり言うとこれからしっかり落ち着きたいんであれば「ごはんとみそ汁」のような男性を選びなさいということ。
占いとは関係ないですが、まぁ確かに重めの洋食にはもう胃もたれします。それでも夜、洋食が食べたいときもあるし、みそ汁でシメるのが惜しい夜もある。
やっぱりすみません…占いの件は関係あり、かもしれない。お年頃症候群というのはまったく、薬の入れようのない不治の病です。
「洋食とみそ汁、どっちもうまいこと選べたなら」…食事ならは、そんなことはいとも簡単に叶いますね。そこにお酒もあれば、言うことなしだ。
今回は“お年頃症候群”も癒やされる?という食堂街を求めて。参ります、恐縮ですが。
駅を降りてからしばらく続く、賑やかな小倉の街。「この前、こんな店あったっけな」、LED電飾が爛々と眩しい、真新しい店の存在にハッとしました。
街というのはどこも、好かれては飽きられて、生まれては去ってゆく、人もまた同じような目まぐるしいサイクルの中で生きる宿命というものがある気がしています。なんだか偉そうに、失敬。
昭和20年から小倉の台所として街を支えてきた「鳥町食堂街」。この街もまた例外なく目まぐるしく変わりゆく中で、その一角だけが時を止めたような不思議な通りです。王道の表現が悔しいけれど、「昭和にタイムスリップしたようなノスタルジックさ」という言葉がピタリの通り。
創業は100年を超える名店をはじめ、老舗が30軒ほど軒を連ねる食通も浮足立つ街。戦後食べ物のない時代に日本で初めて生まれたという、北九州名物の「焼きうどん」発祥の通りでもあります。
赤ちょうちんにのれん、洋食屋さんの古いショーケースには懐かしのよくできた食品サンプルが並びます。
夏はパフェの食品サンプルに出会っては、すかさずパシャりと記録する自分にとっては、エンゲージリングがキラキラと並ぶジュエリーのショーケース以上に、輝かしいものであります。北九州には、こんな懐かしの洋食屋と出会うことが、なんだか多い気がしています。
焼きうどん発祥のお店
40年以上続く、老舗の洋食屋さん。ハンバーグが絶品らしい。
奥にゆくと立体的に広がる「赤ちゃん」ののれんが。“和洋食”とある。 「和と洋食…!」お年頃症候群の嗅覚が逃すはずなく、迷いなくこちらに入ることに。
お店はカウターのみ、お客さん2人に、外ハネのショートカットで色白、冬には旬のシクラメンと姿が重なるピンクがよくお似合いの女将さん。最近気づいたんですが、北九州にはお美しい人がよくいらっしゃるような。
お店の中には絵画のごとく見つめたくなる、真紅でなんだかニュアンスを感じるボードに手書きの文字が素晴らしいメニューには、「ファンタ オレンヂ」の表記。
なぜか昭和の花のあしらいにはよく用いられる、黄色と橙色で、黒い縁がしっかり際立つモチーフ。
うん、いいぞ。
お隣にはご紳士がおひとり。メニューをあまりに見つめすぎたのか、「何を頼んでもここはハズレなし、僕はメニュー順に毎回変えて頼もうと思うんだけど、いつも迷うんだよ」と、一見さんである私の悩ましさを察してくれました。
メニューは「もうヤンチャはいかん…」と承知しつつ、実は心に決めていたエビフライ定食を頂くことに。
ご紳士は関東の方で、小倉の街が大好きなのだそう。「昔はサラリーマンをやってたけど、今は自分で事業を。今日は小倉に来たかったから、小倉で仕事の約束をつけた。」
時は昼ではちょっと遅めの午後4時頃、開店あとからも続々と増え続けたお客さんは、みなさま酒とともに食事を頂き始めている。改めて北九州の飲み文化に対し敬意が溢れます。
「あら、お姉さんが来てからお客さんが増えたね。福の神じゃない?」「あら、ありがとうございます、恐縮です。」
しばらくするとみそ汁が。どんなものがメインであろうと、必ずみそ汁が付くのが昔ながらの食堂のいいところ。
一口するうちにエビフライ定食の到着です。エビはしっかり大きく、個人的にはフライドポテトが添えてあり、心を完全に掴まれました。これぞ求めていた、“和洋食”。
エビフライはさっくりとあら目の衣の歯ごたえが◎。ポテトはカリッと派も喜ぶクリスピーさ。シャンとした洋食を包むように囲むはたっぷりの白ご飯と漬物、みそ汁。なんだ、いい意味で実家のような安心感というか、気取りもせず、ぬかることもなく、五臓六腑が震える食事ではないか。
それにお値段もワンコインからのリーズナブルな食事ができるオールスターズが勢揃い。
ちなみに隣のご紳士は焼きうどんをペロリとビールのつまみに、別途定食に日本酒たしなむという上級者の風格。おみそれいたしました。
ちなみに私のようにメニューを凝視された方はお気づきかもしれませんが、お食事メニューのほかにも「酒のつまみ」部門もありまして、口寂しさまでうめてくれるメニューも用意されております。細やかにさまざまなメニューがあり、工夫次第でステキな飲み方ができそう。こころ高まります。
ここに来てからと言うもの、まるで花でも愛でるように女将さんに目を向けつつも、食事と酒に真剣に向き合うお客さん方。食べ合わせはみなさんさまざまですが、恍惚としてよい顔をされています。それは和だの洋だのなんだ、馬鹿らしくすら感じるほどに。
食事で大切なのは、誰と食べるかはさておいて、「背伸びはせずに、豊かな時間とともにある」ことなのでしょうか。
すっかり夕方には日が落ちる季節になり、外に出ると赤ちょうちんの赤色が、辺りを温かい色に染めはじめていました。大好きな、長い夜のはじまりです。
「みそ汁と洋食が、同じ食卓に並ぶことはおかしなことじゃない。どっちかは選ばなくていいけど、要はこころ落ち着く食事であればいいんだ」…ふつふつと新しい可能性への期待で胸がふくらみ始めました。
あぁ、こんな気持ちの時にちょうど夜が来るなんて。福の神様が、きっと「今夜もどうぞお飲みなさい」と言っているに違いない。神様、あなたの言うとおりに今夜もしっかり誠心誠意いただくことにしますので、代わりに縁結びのご利益でも授けてくれませんか。
今夜も冷えそうですねぇ、燗(かん)でもいっちょ付けとこうかな。
瓶ビールならサッポロ、ワインなら白、つまみなら鳥刺し派です。音楽なら、古いほうがいいですね。 あ、今日ですか?空いてますよ、今夜なら。
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