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  • 2018.5.27 Sun

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岡島です、恐縮です #06 「リリカル・オレンジ」

TEXT BY 岡島 佐和

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岡島 佐和
プロジェクトマネージャー

瓶ビールならサッポロ、ワインなら白、つまみなら鳥刺し派です。音楽なら、古いほうがいいですね。 あ、今日ですか?空いてますよ、今夜なら。

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あくる日、ランチ徘徊

あの日は本降りの雨の日で、前日から飲み晴らした友人と昼前の朝にノソノソと空腹を満たしに外をさまよった日でした。どこそこのランチがいいだの、やっぱカレーが食べたいだの、ボソボソと言いながら渡った別府橋。こっち行ってみよう、あっち行ってみようと道を選びながら進んだような。一旦は迷ってみつつ、2人ともなんとなくアテにしていたお店があったものの、正面にするとなんとなく入る気分にならず。

次の場所を探す道なりに、オレンジの明かりがじんわりと雨の青ににじむ素敵なドアが気になったお店を見かけたのに、もうすっかりカレーの口になっていた私たちは、そんな風情にすら足を向けることなく、もういよいよ歩き疲れた頃、最寄りのカレー屋で空腹を鎮火したのでした。

それからしばらくした今日は、あの日と違ってカラリいいお天気の日。特に予定や約束はなく、昨晩飲み明かした別の友人とせっかくバッタリと会ったというのに、なんとなくそれなりに言葉を交わしたまま、特に共にランチを探すでもなく、カレーが食べたいねなんて、ぼーっと歩き回るでもなく、ただ自転車の赴くままにひとり、ランチを求めにその場をあとにしました。

自転車の赴くままなんて言いながら、あの雨の日と同じように、一旦は迷ってみながらもなんとなくアテにしていたお店があったものだから、その通いのお店でランチを頂くことに。いつも迎えてくれるお店のお姉さんは恐らくはわたしと同じくらいの歳の方で、顔を合わせる度に声をかけてくれる、下睫毛がちょっぴり長いとても可愛らしい人。よかった、今日もいるみたいだ。

午後、喫茶店・カウンターにて

あの雨の日に見かけたお店が急に思い出されたのは、このお店でランチを食べている頃。せっかく晴れているのに、このままいつもの道で生活範囲が収まるのがとても嫌になったせいか、急にあの店に行ってみようと、やっとあの“風情”に足を向けることにしました。

そのお店の名は「ロンリン」。六本松から別府橋を渡った左側をうまく進むと見つかります。店内から漏れいでる、いかにもザ・純喫茶配色(岡島なりに原色のオレンジやこっくりと深い赤や緑、ブラウンと認識しています)が小さな窓ながらもそれがはっきりとした存在感を放っているもので、迷いなくお店に入ることができました。お腹もいっぱいの時間は14時過ぎ、ゆったり日曜日のロンリー・ロンリン、なんちゃって。

店内はレトロなオレンジの電飾が印象的に空間を総じており、こっくりと、すべてのアンニュイも曖昧も飲み込むような。深煎りのコーヒーのカップの中身そのもののような、底深い味わいを体現したような場所。

「お店はどのくらいになるんですか?」
「うん、そうね、結構長いわね。」
「…もう37年かしら。」

年数を恥ずかしそうに、ハニカミ笑顔で応えてくれたママさん、創業以来、博多からバス通いでお店を切り盛りしてきたそう。

「今日はどちらから?」
「博多から来ました、神社の近くです。」
「博多も随分変わったわね。美野島商店街も、昔は結構栄えてたのよ。」
「美野島商店街はお野菜を買いによく。そうでしたか。」

店内にはご年配のご紳士たちが集い、ママさんと言葉を交わしては、また晴れ間の外に戻っていく。

「あなた若いわね、最近うちにもやっと若い人がちらほら見えるのよ。」
「最近は昔ながらの喫茶がまたブームみたいですよ。」
「あらそう、まぁあれね、お客さんたちも私と一緒に年をとってるから。やっぱりお見えになるのは、私と同じ位のお客様だけどね。」

またご紳士がひとりいらっしゃり、ママさんにぐみの木の枝をひとつ。赤い実がゆらゆらとゆれて可愛い枝は、お宅のお庭からのおすそ分けらしいです。ご紳士は80歳前後ほどに見える朗らかな表情の方で、おもむろにスマホをさっと取り出して。

「すごい。スマホ、使いこなされてますね。」
「ほら、ここの地図も出せるよ。」

Google Mapでロンリンの位置情報と、お店について投稿された写真を誇らしげに見せてくれた。ものすごく失礼な話、スマホなるものはご年配の方にはなかなか難しいものだろうと決め込んでいたので、とても驚きました。

「しかしこの店も6月までやね。その後はどうなるかねぇ。」

実は私も知って入ったのですが、ロンリンは今年の6月28日を以って閉店。長い歴史に幕を閉じるのです。ただただ、来店の時期が今となってしまったこと、悔やしいばかり。でも、今回は大丈夫なんです。

実はもう一つ、知っていて入ったことがありました。このお店、新たな方が入られ、この場所を活かしながら新たな生命が宿る、ということ。

「次来られるかもしれない方も、あなたみたいに若い人よ。」
「あら、そうね。そりゃ楽しみたい。素敵なレストランにでもなるとかな。」

「実は、実は」と言ってしつこいですが、もうちょっとだけ。

「べっぴんさんが来られますよ、このお店。」

私が得意げにご紳士に話すと、さらに表情が柔らかになるご紳士。この“べっぴんさん”というのは、“ラスト実は”序盤に登場した通いのランチのお店の可愛いお姉さんのこと。

このお店に来る前に行っていたランチのお店にて。お家計をしてもらったとき、「このお店に居るの、今月末までなんです。」というお姉さんに訳を聞くと、「主人と一緒にお店を開くんですよ」と。「別府のあの辺り…」と話され始めたので、「あ、ロンリンの近くですか?今から行くんですよね。」と言うと、まさにその場所、とのこと。あまりの偶然に、2人して驚いたのでした。

「ちなみにお店の名前はお決まりなんですか?」
「あ、でも恥ずかしくて…!」

お名前はお伺いできませんでしたが、このハニカミ感。だからママさんがお店の年数をはにかまれた時、なんだかじんわり、オレンジ色な気持ちになりました。お姉さんならばきっと、素敵なお店にしてくれるだろうと、閉店の先の、開店がとても楽しみです。

「美味しいご飯がもし出るんなら、わたしも食べに来てみようかしら。」

お店の閉店がどこ吹く風、皆さんその電飾の色がすっかり染み付いたように明るい表情でした。

ロンリン改め、のお店、私もきっと行かせていただきますね。その時はご紳士、また新しくなったGoogle Mapとお店の情報、見せてくれるとうれしいな。

PS. 友人たちへ
私たちのなんとなくも、時には役立つみたいです。雨の日かもしれない、晴れているといいけど。今度はランチの時間、じゃなくてもいいけど、行ってみましょう。私たちもそうやって、歳を取っていけたらいいですね。

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岡島 佐和
プロジェクトマネージャー

瓶ビールならサッポロ、ワインなら白、つまみなら鳥刺し派です。音楽なら、古いほうがいいですね。 あ、今日ですか?空いてますよ、今夜なら。

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