VOICE 来福した旬な著名人にお話を聞いてきました。
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映画監督
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「素晴らしい世界」と「ひかりのまち」と「虹ヶ原ホログラフ」を読んでいました。とくに「すばらしい世界」は、表紙デザインがかわいくて「ジャケ買い」したような感じです。それで読んだらすごく面白くて。浅野さんは、カバーデザインにもアイデアを出す方で、いつも感情に訴えかけるデザインが上手い。そういえば、浅野さんもすごく音楽が好きなんです。だからなのかはわからないのですが、浅野さんの漫画はCDを買うような感覚で見てしまいます。
浅野さんの作品はどれもすごく写実的というか、そこにある映像が一瞬で目に浮かぶ作品が多いんです。とくに僕が好きなのは、風景の描写ですね。本当に細かく書き込んであるのですが、写実的なだけではなく、きちんと主人公たちの気持ちが伝わってくるような温度や匂いをも描写している。僕は、映像ディレクターをやっているので、自分だったら映像化するときにはどういう風景を切り取るのだろうと、創作意欲をかき立てられます。
お話を頂いたときは未だ「ソラニン」は読んでいなかったのですが、読むとまさに自分が携わってきた音楽をベースにした話だったので、すごく共感ができました。そして即決で「ぜひやらせてください!」という話をしていました。それからは漫画では出せなかった音について、映画ではどのような歌で表現しようかなと考えました。実際に歌をつくることになると、これまでの経験が活きてきました。誰でも一度はアーティストのライヴ等にすごく感動した経験ってありますよね?それはつくり手であっても聴き手であっても同じで、楽曲は生で聴くと、きっと音や言葉が生きて胸に響いてくるはずなんです。それは漫画ではできない体験だと思います。今回はそんな体験をしてもらうことを第一目標としてつくりました。
はい。プロデューサーの方達と一緒に、芽衣子をはじめ、登場人物のすべてを話あいながら決めました。
まず宮﨑さんは、お芝居を形ではなく、気持ちを大事にして演じることができる数少ない女優さんだと思っています。僕は、彼女のお芝居からにじみでる繊細な部分が昔からすごく好きで、ぜひ一緒にお仕事をしたいと考えていました。確かに今回のキャラクターを演じる前までというのは、強い女性を演じることが多かったと思います。でも「ソラニン」に出てくる芽衣子というのは、自分が弱いからこそ強がってしまうだとか、優柔不断なところがあるとか、本当にどこにでもいそうな普通の女の子です。そんな芽衣子を、宮﨑さんだったらどう演じてくれるのだろうという期待感がありました。
ありがとうございます。
種田役のキャスティングは色々な方に相談しました。高良君の名前があがったときは、彼に対し最初はすごく硬派なイメージを持っていました。彼の出演作「蛇にピアス」がヘビーな役だったことや「フィッシュストーリー」でのイメージが強くあり、種田とは若干雰囲気が違うのかなと思っていました。ただ実際会って話してみると喋り方がものすごくナイーブだったんですね。そして彼の声を聞いた瞬間、「あ〜これは種田の声だな」と思いました。あと本人は、偶然にも「ソラニン」の原作が相当好きだったらしいです。当初は原作への想いが強すぎるために怖くなり、断ろうかとまで思っていたようです(笑)
アイちゃんは、お姉さんな感じですね。アイちゃん役には、他の四人よりも一つくらい上で、みんなを俯瞰で見れるような立ち位置の優しい感じの女優さんがいいなと思っていました。そこでパッと浮かんだのが伊藤歩さん。面白かったのは、浅野さんも、アイ役はもとから伊藤さんでいこうと考えていたみたいです。浅野さんからは、アイちゃんのイメージが一致していて、すごく嬉しかったですなんていって頂きました。
「ソラニン」では、本当に音楽をやっている人を一人キャスティングしたいと思っていました。もちろん演奏ができるということは大事なのですが、それよりも音楽が持つ力を信じている人に参加して欲しかった。実際にミュージシャンをやっていて、音楽で世界は変えられるというくらい強いものを持っている人が、この中にいれば「ソラニン」の力になると信じていました。財津和夫さんも同様に、音楽を生業とし、それで何かを人に訴えている人を絶対に入れたかったですね。近藤君は、原作を読んだ瞬間、「これってサンボの近藤君じゃね〜か〜」って、ビュジュアルを見て思っていたこともあります。
そうですね…。言葉にするのは難しいのですが、なんだかワクワクしますよね。例えば、たまたまぷらっと入ったライヴハウスでも、どこかで味わったことのあるような空気にすごくシンクロする瞬間とかがあって、悲しいわけではないのに、ぐっと涙が出てくるような体験。それが、音楽の力であり魅力だと思います。なんていうのかな、音楽に救われる瞬間ってありますよね?新しいことに進むきっかけとして、音楽は存在するのかもしれない。
二人が一緒のシーンは、つくるうえで一番気をつけたところです。二人は一緒に住んでいて一見すると仲良さそうなのですが、実は相手の事をあまり理解できていない。会話のなかでもお互いの本音をいっているのではなくて、どこかで気持ちの裏返しをいっていたりする。そんな何気ない生活の中にある、些細な二人の感情のずれを映画でうまく出したいなと思いました。とくに部屋の中にいるシーンは、主演の二人ともよく話したんですけど、「同棲何年目くらいだと、これぐらいの距離感で部屋にいるよね」とか細かい雰囲気つくりを心がけました。後はクライマックスのボートでのシーンでは、最初で最後となるお互いの本音をぶつけあうシーンだから慎重につくりこみました。それまでは芽衣子が「バンドやればいいじゃん」っていっていても実は本心ではなくて、自分の夢が見つからないから、その想いを種田に押しつけていただけなんですね。ここは二人がようやく向かい合えるというシーンなので、その会話の温度差にはすごく気をつけました。
映画と同様に実際の対バンライヴというのは、観客は意外とシレーッとしていたりとか、盛り上がるわけでもなく「なんかやってるな」くらいの反応です。そんな観客の細かい様子やアーティストの控え室での嫌な緊張感を再現しようと思いました。僕がこれまで見てきたライヴハウスの空気感はリアルにだしたいと思っていました。宮﨑さんのライヴ中の汗の感じは、ライト浴びながら何曲かプレイすると汗とか結構出てくるんですね。その感じを出したいなと思っていました。ただ撮影は僕の想像以上に宮﨑さんをはじめ、桐谷君や近藤君たちが、ライヴのリアリティにこだわってくれました。本番では、「ソラニン」をエンディングで歌っているシーンのみんなの力を出しきったという表情だけをおさえたかっただけなんですが、それだとリアリティがないからということで、ソラニンの1曲前からエンディングまで、フルでプレイして、そのときの表情を撮ってもらいたいですと、宮﨑さんから仰ってくれてました。それがバンドのやる音楽をうまくひきだしたのだと思います。
10代〜20代前半の頃というのは、自分の持つ可能性に対し、まだ何でもできる!と思っている部分と、もう何もできないかもしれないという部分の二面性を常に持っていると思うんですね。人生を生きていく上で進む道が、年を重ねる毎に時間の制限に変わるっていくのがわかるときだと思いますし、きっとお金の制限とかもあると思う。そんなぎりぎりのリミットに追われながらも決めることは決めていかなきゃいけない。そうなると、大切なものを諦らめてしまう人もいれば、先は見えないけれどやはり夢に向かって突き進んでいくという人もいると思います。それは、どちらが正解というのではなく、選んだ選択肢に対して、自分は前を向いて進むことができたのかが大事だと思います。人それぞれの人生だと思うので、「ソラニン」は悩んだときに一歩前に進む力になれればいいなと思っています。
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